「僕が何のために走っていると思っているんですか?」
He said, "What do you think I run for?”
というキプチョゲの心の叫びに対して、ルー・タイスは淡々と「分からない」と答えます。
人のことなど分かりません。
ルー・タイスは「何のために走っているの?」と優しく聞くでもなく、むしろ火に油を注ぎます。
「まったくわからないな。 いいかい? 私が走らないことは知っているだろう? 私だって、あの痛みは我慢できないさ」
I said, "I haven't got the slightest idea. Look at me. Do you think I run? I can't stand the pain myself.”
まったくわからないな(I haven't got the slightest idea.)に続けて、「俺を見てみろよ、俺が走るように思うか?」と答えます。
Look at me.
です。
訳語はやさしく「いいかい?」ですが、原文は違います。
俺を見てみろよ、走るように思う??という煽りですよねー。
あんな痛みにゃ耐えられないよ、と。
そこでブチギレたキプチョゲはこう叫びます。
「僕が走るのは、モントリオール・オリンピックで勝てたら、牛がもらえるからです。僕の国では、それでずいぶん金持ちになれるんです。家族は、僕をアメリカの大学に送るために自分たちの生活を犠牲にしてきました。だから僕は、家族のためにも国のためにも、金メダルをとりたいんです」
涙ぐましい話です。
キプチョゲのこの悲痛な叫びに対して、ルー・タイスは何と答えたでしょう?
(ご承知のとおりです)
Why don't you just shut your mouth and run then?
(そのペラペラくだらないことをしゃべる口を閉じて、黙って走ればいいだろボケ!💢)
とルー・タイスはお答えになっております。
きっとFワーズを多用して怒鳴ったのかなーと勝手に思っています(^o^)
楽しいですね〜。
そのあとにバカは死ななきゃ、丁寧に噛んで含めるように、丁寧に丁寧に具体的に子どもに話すように伝えています。
私は言いました。
「じゃあ、黙って走ったらどうなんだ? 君は走る必要はない。でも、走ることを選んだ。私になぜ走りたいかを話した。それは君自身の考えだ。本当は無理して走る必要などないんだよ。レースを終える必要なんてないんだ。いつだって止まることができるんだ」
I said, "Why don't you just shut your mouth and run then? You don't have to run. You choose to run. You told me why you want to run. It's your idea. Really, you don't have to run. You don't have to finish the race. You could stop at any time.”
ちょっと並べてみましょう。
おそらくルー・タイスの心象風景が見えてきます。
(これが共感覚Readingです)
"Why don't you just shut your mouth and run then?
You don't have to run.
You choose to run.
You told me why you want to run.
It's your idea.
Really, you don't have to run.
You don't have to finish the race. You could stop at any time.”
もう本当に声に出して読みたい英語です。
黙って、走ったらどうなんだ?
お前が走る必要なんてない。
お前が走ることを選んだ。
お前が俺に、なぜ自分が走りたいのかを言った。
それはお前の考えだろ。
だろ?? お前は走る必要なんてないんだよ。
お前はレースを走り切る必要なんてないんだ。いつだって走るのをやめて止まっていんだよ(ついでに、赤ん坊のおしめも替えなくてもいいんだよ)。
和訳するとニュアンスが見事に消えますね。
やっぱり声に出して読みたい、いや、声に出して絶叫したいルー・タイスの言葉ですね!!
たとえば、こんな直近で
You don't have to run.
と二度も繰り返しています。
何度言っても君にはどうせわかんないだろうけど、何度も伝えるねってことでしょう。
(引用開始)
私があなたに厳しい課題を与えるつもりであることを最初に知っておいてください。私が何を言おうとしているのかを解き明かすのに苦労することもあるでしょう。しかし、一度理解して自分のものにすれば、周囲の人にも伝えることができます。チームを築き、自分の夢を実現させることができるのです。(引用終了)
Q.「しかし」の前後で何が逆接となっているでしょう。
Q.私があなたに与えるつもりの「厳しい課題」とは具体的に何でしょう?
そして、どうせほとんどの人がわかんないだろうけど、何度も書くね、ってことでしょう!
(「しかし」、もしかしたら針の穴を通って、こちら側に来る人もいるかもね、と)。
キプチョゲの痛烈な叫び(家族と国家のために金メダルを取りたい!)とルー・タイスの非常な宣告(黙って走れ)の合間に静かすぎるナレーションとして、ケニアのモントリオールオリンピックボイコットが挿入されます。
国家のためと願ったアスリートが、その国家によって、その夢を永遠に奪われたのです。
ただ、この重要な一節がなぜか日本語版にはどこを探しても出てきません。
(いや、正直、僕の引用ミスを疑いました。何年も何年も引用ミスのまま自分が自分の引用をブログにコピペしてきたのかもと思って、ゾッとしました)。
しかし、何度見てもルー・タイスの「アファメーション」にはその部分は訳出されていません。
それなのになぜか書かれていないことは訳しています。
我々には見えない何かが翻訳者には見えているのでしょうか?
まず訳を見てみましょう。
「じゃあ、黙って走ったらどうなんだ? 君は走る必要はない。でも、走ることを選んだ。
有名な一節です。
君は走る必要はない。でも、走ることを選んだ。
カッコイイですよね。
でも、これが捏造だとしたら?
You don't have to run. You choose to run.
(君は走る必要はない。君は走ることを選んだ。)
残念ながら、原文に接続詞など、どこにもありません。
ましてや存在しない逆接の接続詞を放り込んだら、意味が全く変わってしまいます。
この2文を「でも」という接続詞で結んではいけないのです。
One more thing,
(もうひとつ言わせて欲しい)
僕らが仮にトピックセンテンスと見做していた文章も、原文はこうです。
By thinking in terms of have to, he was coercing himself and thus creating more pain for himself.
DeepL訳:彼は、"Have to "という言葉を使って、自分自身を強制し(he was coercing himself)、自分自身にさらなる苦痛を与えていたのです。
和訳:「しなければ」を基準に考えることで、自らの痛みの原因をつくり出していました。(ルー・タイス『アファメーション』)
ずいぶんと意味が変わります。
さらなる苦痛であって、痛みの原因とは違います。
『「しなければ」を基準に考える』ではありません。
この引用ではもうひとつ深刻な訳のミスというか、ミスリードがあります(それはまた別の機会に)。
というか、本当に訳に振り回されている感じがあります。
ちゃんとした和訳が欲しい!とないものねだりをせずに、僕らは静かにLou Ticeのオリジナルを丁寧に読み、その精神に触れるしかないですね。
c.f.ある日、木のそばを通りかかったりして、魂を閉じ込めている事物に触れると、魂は身震いし、我々を呼ぶ 2021年04月26日
そうしたら、ルー・タイスと共に歩けるかもしれないので!!
というか、是非一緒に歩きましょう!!