まずはテクニカルな話から。
触り方のルーティーンは、必ず腰(のくびれ)から触ります。
腰のくびれに手を当てて、わずかに上にずらすと肋骨下部、わずかに下へずらすと腸骨稜に当たります。
ここはホームポジションのようなもので、すべてをここからスタートするつもりでやってみてください。
想像して欲しいのですが、最初から唐突に座骨を触れれたり、骨盤を触られるのクライアントを驚かせます。
(もちろん施術の一番最初は、肩や背中、肩甲骨から触ります。手首や腕というのも有効です。ボディタッチというのは繊細な行為ですので、相手のボディーゾーンを見極めながら、行います。これはまた別の話です)。
すでに施術が始まっていたとしても、腰のクビレからスタートするというルーティーンを守ると安全ですし、自分自身の手に馴染んでくるので、自然と身体のランドマークを正確に流れるように触れられます。
腰のクビレに手を当てて、肋骨下部と腸骨稜を確認したら、前にすべらせてASIS(上前腸骨棘)をそこから少し下に降りるだけで下前腸骨棘であり大腿直筋の起始です。ASISから斜めに鼠径靭帯に手を沿わせると恥骨に当たります。
このVラインはきわめて重要です。
Vラインに上手に手を当てると、恥骨にたどりつきます(恥骨や鼠径靭帯には原則として触れません。ただし信頼関係があって、クライアントの許可がある場合は別ですが)。
背中側に行くと、腸骨稜からVライン上に降りていくと座骨にたどりつきます。
どちらも外側から内側へ斜めに降りていくことが重要です。
また、ASISから側面へ降りていくと大転子です。大転子に関しては、よくわからない場合は大腿骨を動かしましょう。大転子のあるあたりに手を当てて、大腿骨を内外転したり屈曲させるとくっきりわかります。
肋骨下部、腸骨稜、ASIS、鼠径靭帯、恥骨、座骨、大転子などのランドマークは腰のクビレからスタートして一瞬ですべて場所を把握できます。この手の使い方をマスターしましょう。
ちなみに、骨格模型の印象と違って、肋骨から腸骨の間というのは非常に狭いです。
これに戸惑う人が多いです。
地図とその土地は違う
のですw
熱心に解剖書を読んでいたり、骨格模型に触れているとかなり混乱します(ですので、なるべく自分の身体を触りましょう)。
脳は臨場感が高い方を採用するので、自分の体を触りまくりその「生きた解剖学」の臨場感を優先させましょう。
そもそも骨格模型は脊椎がまっすぐすぎます。実際は少し伸展していますので、狭くなっています。
だからこそ、解剖書を眺めるときは、自分の身体を触りながら、確認することです。
解剖書は素晴らしいマップですが、ミスリードさせるようなデザインになっていることがあります。
たとえば、大胸筋や広背筋、僧帽筋というのは大きくて、三角筋は小さそうに見えるのですが、巨大なのは三角筋の方です。
頭が良い人は、圧縮して理解しようとするので(それ自体は悪くないのですが)、解剖書に自分を適応させ、ペーパーテストに自分をアジャストさせてしまいます。そうすると、圧縮して単純化して暗記するのが賢いということになります。起始停止もマントラのように丸暗記するほうが、人を出し抜けます(失礼な言い方ですがm(_ _)m)
ですが、BootCampでは実践が全てです。
敵を増やす言い方をすれば(笑)、それもタレブから引用するならば(と逃げを打っておきますがw)
悪人は近道をするが、善人は遠回りをする(Compendiaria res improbitas, virtusque tarda)
のです。
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*昨日、受講生から教えてもらい、タレブが新刊を出したことを知りました。
面白いです。相変わらずのタレブ節です。
とは言え、ここからではなくメジャーなブラック・スワンあたりから順に読むことを薦めますが。
遠回りをしましょう。
遠回りとは、タレブの言い方で言えば、そしてまさにタイトルがそうなのですが(『身銭を切れ』)
身銭を切れば物事はシンプルになる。それも、拍子抜けするくらいにシンプルに。
解剖直観というのは、華々しい名前とは裏腹にきわめて職人気質なものです。手技と観察とフィードバックの連続によって、養成される技(アート)です。
このシンプルさが、近道をしている人には永遠に理解できないものになります。
(その抜け道が「身銭を切れ」なのでしょうが)
受講生たちは、よく分かると思うのですが、繰り返し繰り返し繊細に調整することで身体に覚え込ませていくもので、猛烈に脳にも身体にも汗をかくものです。
非常にシンプルな数個の手技を丁寧に丁寧に学ぶことが、圧倒的な成果を生みます。
ソルジャー候補生たちは、解剖書を観るときに癖として、自分の身体を触ってしまいます。
地図をまわしながら、歩いている観光客のように、地図と目の前の世界を一致させようとします。
この迂遠(うえん)さが良いのです。
単に解剖学を覚えたいのであれば(お教室という井戸の中でスターになりたいのであれば、もしくは手っ取り早く試験を通過したいのであれば)、もっと簡単な近道はあります。
しかし、戦場では磨き上げられた武器以外は役に立ちません。
ペーパーテストに通過するための技法は、実践の前では何の役にも立たないのです(言い過ぎですがm(_ _)m)
ですので、暗記した解剖学を一回忘れて、全て捨て去って、まっさらな頭でまたゼロから学ぶつもりで、基礎的なことからコツコツと手で覚えることをBootCampでは求められます。
その感触を「解剖直観」と呼んでいます。
すなわち、目で見て、手で触り、動かして確認してみて、クライアントとコミュニケーションを取るなかで、身体の中が見えてきます。その透けて見える感覚を「解剖直観」と呼んでいます。
当然ながら、クライアントの身体が透けて見えるためには、自分の身体を透明にする必要があります。ノイズを消す必要があります(拘縮や力みは大きなノイズになり、小さな音が聞こえなくなります)。
ちなみにノイズとか音というのは共感覚的にはメタファーですが、物理学的な根拠もあります。音は振動であり、我々はモノを介して振動を感じることで、あたかもモノに神経回路が通っているように感じることができます(昨日の懇親会で、Rayさんがしきりに紹介していたものですね)。
我々はスプーンの先も、ほうきの先も感じます。
ほうきで床を掃(は)きながら、床の感触を脳は認識しています。
アイスの硬さがスプーンを通しても分かるように、道具の先にもあたかも感覚神経があるように感じる訳 2019年11月24日
同様に我々は服の上、表皮の上、皮下脂肪(浅筋膜)の上、深筋膜の上から触っているにも関わらず筋繊維を感じることができます。そう、振動によって。
この敏感さは恐るべきものです。
上で紹介した記事ではこう書いています。
パチニ小体は200〜300ヘルツの高周波の震動を最もよく感じるというのですから、皮膚が0.00001ミリ動いただけでも感知できます。
すごいことです。
(よく「機械を騙す」と言われる金属加工の職人たちの、コンピューター以上の精度というのは、この感覚器官によって支えられているということです)
そして感覚ですので、鍛えれば鍛えるほど洗練されます。
ソクラテスの洞窟の比喩(プラトン『国家』)ではないですが、我々はすでに目という感覚器官を持っていて、それを活かせるかどうかは「慣れ」であるというのと同じです。
徐々に深く深く身体の中に入り込むことです。
解剖直観の土台をしっかり身につけたソルジャー候補生の皆さんはスクール2日目、ますます洗練させていきましょう!!
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