ホーキング博士の思い出と言えば、まだ車椅子に乗っておらず、しかしALSが発症して時間が経っており、窮屈そうに、でも満面の笑みで椅子に座る姿です。
いや、もちろん直接に会ったことはなく、子供の頃に雑誌のインタビュー記事で拝見しました。
小学生かその前だったか、科学者になりたいという僕の夢を知ってか知らずか、理系の父方の叔父が自分のコレクションであった雑誌ニュートンを全て譲ってくれました(まだ初代編集長の竹内均さんが全然お元気だったころです)。立派なフォルダに入った雑誌ニュートンがいくつもいくつも並んで壮観でした。
小学校に上がる前には宇宙物理学に魅せられていたので、読むものに困らず非常に助かった記憶があります。知に飢えているときは図書館までの道のりが遠いもので、手元にあるのは最高です。
その中にホーキング博士のインタビューがありました。当時であっても、発症してから十分な時間が経っており、いつ亡くなってもおかしくないと言われていました。
ホーキング博士を知り、すごい人がいるものだと思ったものの、一方で才能の限界をはっきりと感じた中学生のころに、物理学を志すのをやめた原因もまたホーキング博士でした。
彼が提唱する「ブラックホールは黒くない」や「ブラックホールは蒸発する」という議論は面白いと思ったものの、さすがに着いていけないと感じてしまいました。理解できないという意味ではなく(それもありますが)、パラレルワールドやベビーユニバースやインフレーション宇宙などがポンポン出てきて、物理学が安っぽいSFになってしまったような気がしたのです。
自分が愛した物理学はアインシュタインまでの古典的な物理学であったことを理解したのは、大学で科学哲学を学んだころでした。パラダイムシフトができなければ、歴史から振り落とされるものです。
*ブラックホールに飲み込まれる星
ホーキング博士は自伝の中で自身がガリレオ・ガリレイの死後きっかり300年後に生まれたことについて言及しています(そしてそれが何の意味ももたない、とも)。そしてまた同じようにアインシュタインが誕生した日に亡くなったのもただの偶然なのでしょう(寺子屋でも良く言うことですが、ガリレオ・ガリレイが亡くなった年にニュートンは生まれます。マルクスが死んでケインズが生まれるように)。
3月14日と言えば、ホワイトデー、、、というよりは円周率を思わせます。
ホーキング博士は脳はコンピューターのようなものだと言いました。
部品が壊れたら、動かなくなる、と。
だからこそ、壊れたコンピューターに死後の世界も天国もなく、それらは闇を恐れる人々のおとぎ話にすぎない、と。
I have lived with the prospect of an early death for the last 49 years. I'm not afraid of death, but I'm in no hurry to die. I have so much I want to do first ... I regard the brain as a computer which will stop working when its components fail. There is no heaven or afterlife for broken down computers; that is a fairy story for people afraid of the dark.
- As quoted in "Stephen Hawking: 'There is no heaven; it's a fairy story'" by Ian Sample, in The Guardian (15 May 2011)
しかしコンピューターにとって重要なのは、そのシリコンでもカーボンでもなく、計算です(万能チューリングマシンであり、エミュレーターですね。移し替えることが可能ということです。我々の脳はまだエミュレートできませんが。出してきた数式を理解しようとすることはできます)。
アインシュタインではないですが、Equationsは永遠に不滅です。
Yes, we now have to divide up our time like that, between politics and our equations. But to me our equations are far more important, for politics are only a matter of present concern. A mathematical equation stands forever.(Einstein)
まあ興味深いことに、ホーキング博士は方程式(代数学)は数学において最も退屈な部分だと言っていますがw(むしろ数学の幾何学的な側面を観たいと)。まあこれは数学の中の話であり、本稿の話題にしているのは大きな意味でのequationsですが。
Equations are just the boring part of mathematics. I attempt to see things in terms of geometry.(Hawking)
いずれにせよ、その機能(function、計算)が重要であり、その機能はどこかのコンピューターで走らされる限りは永遠に不滅です。すなわち記憶があるかぎりその誰かの脳というコンピューターの記憶の中で生き続けます。
我々の脳の中でもホーキング博士は生き生きと生き続けるでしょう。
ただ、ホーキング博士から生み出されたであろう新しい計算はもう二度と見ることはできません。
それは非常に寂しいことです。