「個体発生は系統発生を繰り返す」ではないですが、バレリーナの日常が系統発生を繰り返すというのが前回の記事のポイントでした(冗談です)。
ただ赤ん坊がベッドの上に転がっている状態から、寝返りを繰り返し、四肢を何とか動かし、首が座り、腰が座り、ハイハイして、立ち上がり、歩き出し、踊りだすように、バレリーナも毎日レッスン前は同じように身体を慣らしていきます。
なぞなぞ好きなスフィンクスも真っ青な日常です。ハイハイの四足から、二足歩行を経て、杖をつく3本足だけではない、バリエーション豊かな日常を過ごしています。軟体動物よろしく足が無い状態から、バーを持っての四つ足、三つ足を経て、二足で踊ってみたかと思うと、1本足で華麗に舞い、最後は足の不要な空中にバロンします(いまさらではありますが、先日のニューオオタニ美術館の展示でバロンが人の名前由来であることを知りました)。
*この美術展は本当に良いものでした。資料も素晴らしく、興味深いものばかりでした。
昨日も書きましたが、我々はザハロワの映像を見ながら、ストレッチやウォームアップについての概念をアップデートしたほうが良いと思います。我々素人がやる柔軟体操なるものは、大概、身体の破壊行為です。いや、ある程度、ヨガをやってきている人のアーサナですら、物理法則に反した(関節の可動域に反したという意味で)傷害行為であることが非常に多いです。
傷害ということで言えば、身体のド素人でしかない整体師の皆さんの整体行為も同様です。触ることについてどれほどお勉強しているのか知りませんが(していないことは知っていますが)、自身の身体がカチカチで動けないのに、どうしてはるかに高レベルでやわらかく繊細なアスリートやダンサーの身体を自分はゆるめられると慢心できるのかいつも不思議に思います。小学生が大学教授にお勉強を教えるようなものです。もちろん、自分が踊れなくても、ダンサーを上手に施術できることはあります。ただ、カチカチの身体で破壊行為にしか見えない施術を得意満面でやられているのを見ると、イラッとします。まあ結果が出せなければ、すぐに職を追われるでしょうから、自然淘汰というのは市場経済においても、うまく働きます(働く場合は)。
下手な整体師はさておき、いずれにせよマタイ効果はここでもはっきりと働きます。
柔軟性のある人は、ウォームアップやストレッチでより柔らかくなり、硬い人は無理で無茶な破壊行為でしかないストレッチでますます身体を壊し、硬くします(残念ながら自覚症状もなく)。
ザハロワは特に気持ちよさそうでもなく、淡々と身体の細部を確認していくように、ストレッチをしているのが印象的でした(動画はこちら)。
話を寺子屋「はじめての解剖学」では骨格ということを捉え直しました。
いわゆる「バレリーナのための生きた解剖学」で公開した「セキツイ」という考え方を取り入れました(セキツイとあえてカタカナにしているのは、背骨や脊椎では古いアイデアが出てくるからです)
我々人間は基本的には二足歩行ですが、とりあえず四つ足と考えます。
セキツイが空中に横向きに伸びているとして(四つ足状態で)、そこに四肢がぶら下がっているというイメージが、セキツイの感覚です。
セキツイから、四肢がぶら下がっています。ついでに頭もぶら下がっているいます。
操り人形のようなイメージです。
セキツイが空中に浮かんでいて、そこから四肢がぶら下がっているイメージです。
そのイメージがクリアにできたら、そこに骨盤と肋骨を追加します。
実際はセキツイから直接四肢がぶら下がっているわけではなく、実際は骨盤から足がぶら下がります。
一方、腕も実際は肋骨があり、肋骨から肩甲骨と鎖骨が架橋する形で上腕がつながっています(まあご承知だとは思いますが(^^))
寺子屋では「セキツイを一筆書きで書きましょう」というワークをしました。
積分のインテグラルという記号はSumのSをギューッと伸ばしたものですが、セキツイも同じです。
Sの文字をギューッと伸ばして、上端を少し真っ直ぐ気味にすると頚椎になり、ふくらませると胸椎になり、反った部分が腰椎です。二度ほどSの字を書くイメージです。
それを横にすれば四つ足のセキツイになります。
頭の中でイメージするよりも、実際に手を動かして鉛筆で書くほうが良いと思います(鉛筆に限定しませんが)。寺子屋でも解剖図を書くというワークをしましたが、自分が理解しているものは、頭の中に思い浮かべる以上に正確に表現されたものの中に表れます。
ポール・ヴァレリーでしたか、自分が書いたものを読んではじめて自分がいかに理解していなかったかを知ると言いました。同様に自分が描いた解剖図を見てはじめて自分の解剖学の理解を知るのかもしれません。
逆に解剖学を身体に落としこむときは、一筆書きのようにサラサラと解剖図を描くと良いと思います。
セキツイを一本の線で描き、そこに手足を書き足します。そこに頭を足して、とりあえずの解剖図の出来上がりです。
セキツイに手足がぶら下がり、頭がぶら下がっています。
そしたら、肋骨を書き足し、骨盤を書き足し、肋骨の上に肩甲骨を足し、鎖骨も足します。
ひざ下と肘下の骨は2本になり、手首・足首の下は5系統に分かれます。
上から大腿骨・上腕骨は1本、脛骨・腓骨で2本、その下は足根骨・手根骨がたくさん、指は5列です。下に行けばいくほど数が増えるのは、抽象度における情報量と似ています(^^)
頭蓋骨に関しては、細かく考えるとしても、とりあえず頭の半分が頚椎ということを押さえておけば大丈夫です。
第一頸椎はほぼ耳の位置なので、頭(頭蓋骨)の半分の高さまでは首(頚椎)です。
セキツイ中心で考えると全身の骨格はかなりシンプルに見えるのではないかと思います。
シンプルである以上に重要なのが、このセキツイからぶら下がっているという感覚が身体操作にとって重要ということです。詳しくは次回に。
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セキツイからすべてがぶら下がっていると考えるとうまくいわけ 〜寺子屋「解剖学」の風景〜
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