天才モーツァルトのイメージを決定的に変えたとも言われる映画『アマデウス』。
そのワンシーンがいつも頭に去来します。
ヨーゼフ2世がモーツァルトを宮廷に迎えるとき、宮廷作曲家であったサリエリが歓迎の意味を込めて一曲創作します。
それを聞いたヨーゼフ2世が自分が演奏すると言い出し、実際にピアノの前に座ります。
ヨーゼフ2世神聖ローマ帝国皇帝自らの演奏です。
ちなみに、ヨーゼフ2世はマリー・アントワネットのお兄さんであり、モーツァルトはマリー・アントワネットの子供の頃に求婚しています(という話しはずいぶんと昔から繰り返していますねー)。
いや、このサリエリの話しも幾度も繰り返しています。
c.f.アイスクリームをなめるブルース・リーとモーツアルト、そしてJupiterのガリレオ衛星など 2015年06月07日 テーマ:English Kindergarten(9年前にもキラキラ星を紹介していますねー。そしてEnglishKindergartenはもう10年前なのですー)
映画「アマデウス」ではそのことがコミカルに描かれています(のちのマリー・アントワネットに6歳の頃求婚したという話も、モーツアルト自身が笑い話としてしています)c.f.寺子屋参照資料(前編)「偉大なる音楽は、もはや特権階級の人々の楽しみのために奉仕してはならない」 2015年06月19日 テーマ:寺子屋
モーツアルトと言えばアイネ・クライネ・ナハトムジークが有名です。
次々とあらわれる主題は、あふれる才能の典型のようですが、まさに彼はリミックスの天才なのだと思います。
リミックスのためのストックの良い例として、葉加瀬太郎さんはこんな例を出しています。彼の抜群の記憶力、そして理論に対する深い理解が伺えます。
「ガラスの仮面」の北島マヤではないですが、モーツアルトは一度聞いた曲は完全に覚えたそうです。
映画「アマデウス」ではそのことがコミカルに描かれています(のちのマリー・アントワネットに6歳の頃求婚したという話も、モーツアルト自身が笑い話としてしています)
(動画が削除されていたので、ワーナー・ブラザーズの公式チャンネル版に切り替えました。吹き替えですけど。2022/01/15)
しかし実際はこのサリエルの小品どころの話ではなく、9声からなる合唱を一度聞いて暗譜したそうです。グレゴリア・アレグリの「ミゼーレ」です。そのような芸当ができるほどの、暗記力と膨大なストックゆえのひらめきです。トルコ行進曲も当時はやっていたトルコ音楽からインスパイアされたわけですし。
ちなみに、モーツアルトと言えば、僕らは「ル・パルク」を思い出します。K. 488 (1786)ルグリとオーレリです。今のように、この2人がいないオペラ座なんて考えられません(TOT)
サリエリの創作をヨーゼフ2世のたどたどしい演奏で一度聞いたモーツァルトはそれを即座に暗譜して、そして諳んじるばかりか、演奏してみせて、演奏するばかりか、その場で編曲をします(そのシーンが上のYoutubeの切り抜きです)。
これは天才の偉業なのです。
でもこれは伝説なのではなく、彼の日常です。
その感触が分かるのが、有名なキラキラ星の変奏曲です(この話しも繰り返しておりますがー)。
シンプルなキラキラ星がまさにキラキラと変奏されている様が最高に興奮します。
(僕は幸いにもモーツァルトの自筆の楽譜を見たことがあります。
全く書き直し無くということはありませんでしたが、感動でした)
そして、モーツァルトは作曲についてこう語っています(これも以前にも紹介していますね)。
c.f.「桐島、湯切りやめるってよ」「美は作業の中に宿る」(ロダン)「AI、もう人間いらないってよ」 2017年12月08日
長年にわたって、僕ほど作曲に長い時間と膨大な思考を注いできた人はほかには一人もいません。有名な巨匠の作品はすべて念入りに研究しました。作曲家であるということは精力的な思考と何時間にも及ぶ努力を意味するのです(アマデウス・モーツァルト)
死去する3年前の手紙[14]に自分自身のことを語っている。「ヨーロッパ中の宮廷を周遊していた小さな男の子だったころから、特別な才能の持ち主だと、同じことを言われ続けています。目隠しをされて演奏させられたこともありますし、ありとあらゆる試験をやらされました。こうしたことは、長い時間かけて練習すれば、簡単にできるようになります。僕が幸運に恵まれていることは認めますが、作曲はまるっきり別の問題です。長年にわたって、僕ほど作曲に長い時間と膨大な思考を注いできた人はほかには一人もいません。有名な巨匠の作品はすべて念入りに研究しました。作曲家であるということは精力的な思考と何時間にも及ぶ努力を意味するのです」
書き始めると、書きたいことが膨れ上がってしまい、収集がつかないので、収束させたいと思います。
何が言いたいかと言えば、これはミメーシスだということです。
c.f.失業に向かってまっしぐらに進み、地球上でもっとも高い教養でもっとも低い収入を得る方法 2018年06月10日(←ミメーシスについて。とは言え、これは良い意味でのミメーシスの話)
モーツァルトはサリエリの欲望を欲望したのです。
サリエリが表現したい情報場を拙い演奏と拙い作曲からアクセスすることに成功したのです。
そしてそれを自分なりに物理空間に落としてきたのです。
「誰が創作したかとか、誰が演奏したかとか、一切関係なく、美しい音楽宇宙を一緒に楽しもうよ」というのが、無邪気なモーツァルトの心象風景でしょう。
サリエリを貶(けな)す意図など毛頭ないし(深く尊敬していました)、ふざけてもいないし、モーツァルトは自分の才能をひけらかすつもりもなかったのです。でも、サリエリを深く傷つけ、そしてサリエリの闇落ちを招き、それが自分の死につながる(という映画の設定です)。
これはピカソも同じです(と書き続けたいのですが、次の機会に!)。
というか、箱根の彫刻の森美術館のピカソ館だったかと思うのですが、ピカソの連作をすべて同時に見たときに、このことが明瞭に分かりました。ピカソはモーツァルトと同じなのです(そして、どちらも天才と大衆に理解されるからこそ、二流でしかないという感覚も理解します)。
c.f.誰でも出来る事を 誰もマネできない位やれる人間は 必ず成功する(黄帝心仙人) 2022年11月28日(ど根性をやり抜きましょう)
シェイクスピアも同様です。すでに彼の作品が本歌取りであることは研究され尽くしています。しかし、だからこそ(オリジナルと比較できるからこそ)、シェイクスピアの変奏曲の美しさが痛感できるのです(たとえば、ロミオとジュリエットも!)。
*東京バレエ団のロミジュリ、素晴らしかったです!!
ああ、もう一つ!
(One more thing!)
モーツァルトと言えば「ル・パルク」
パリ・オペラ座の至宝であるオーレリー・デュポンとマニュエル・ルグリの「ル・パルク」を観ておいてください!
(特に美脚組ー)
