かつて、体罰は家庭でも学校でも正しいこととして行われてきましたが、ホワイト革命の中で、体罰にせよ、暴言にせよ、許されなくなってきています。
*ヒーローとは暴力を行使する人なのです。
自分の正義を実現するためには、周りに多少迷惑をかけるのは仕方がないというのが背景にあるパラダイムです。ウルトラマンが怪獣と戦う際に、街を踏み潰してしまうように。
殺人や強姦のほとんどが家族や友人や顔見知りの中で行われるように(無差別殺人は極めてレアで)、ホワイト社会における性と暴力はDomesticに隠されていきます。
最も醜悪な暴力というのは、家族や親密な関係の中にラッピングされるので、外からうかがい知ることが難しくなります。
肉体的な暴力であれば、気付かれるかもしれませんが、精神的虐待であれば、外からはなかなか気づけません。そしてそれが巧妙であればあるほど、気付くのが難しくなります。その上、うまく洗脳できていれば、まさか自分が虐待されているなどとは思わないので(教育されていると勘違いして)、完全犯罪が成立します。完全犯罪というか、悪意なき完全犯罪ですね。なぜ、犯罪と言うかと言えば、虐待は暴力だからです。そして暴力はスポーツなどの例外を除き(もしくは国家が法律に基づいて行う場合は免責で)、この世界では犯罪です。
ミシェル・フーコーが「監獄の誕生」の中で、暴力が隠されることで、より陰湿に支配が可能になったという意味のことを言っています。
それまでであれば、さらし首なり、市中引き回しなり、ギロチンなり、十字架の磔刑なり、市民の目の前で暴力が執行されてきました。
今は、死刑囚を殺すこと、殺したことさえ、公開しません(遺族への連絡のリークという形で公知となりますが)。
暴力を隠すことで、より想像力を刺激し、支配が強まるからです。
*原作では「監視と処罰」がタイトルで、「監獄の誕生」がサブタイトル。
アマゾンにはこう書かれています。
(引用開始)
十字架刑や絞首刑のような見せしめをともなう残酷な刑罰は18世紀の末に終わった。以後、囚人や犯罪者は監獄に収容して矯正し、社会復帰させるものという認識がはじまる。肉体の刑から魂を罰する刑への移行である。国家権力はどのようにして監獄を管理するに至ったか。フーコーのいう「監獄」とは犯罪者を収容する場所にとどまらず、孤児院、感化院、施療院、さらには学校、軍隊、病院にも及ぶ。人間の意志や多様性を統御し、国家の機構に組みこむ、監視と処罰による権力のメカニズムを探求する画期的思想書。
(引用終了)
これと重ねて「1984」も読みたいですね。
漫画でも良いので。
目の前で鞭打たれている姿を見るよりも、隣の部屋で鞭打たれていて、その音だけが聞こえる方が恐怖が増します。想像力はリアルをはるかに超えてくるので。
(引用開始)
母方の祖母はかつて、「コーヒーは要らないわよね」と言って、父を怒らせたことがあった。父はこの言葉を、祖母が彼にコーヒーを淹れたくないのだと受け取った。これがもとで、母は自分の両親と連絡を取らせてもらえなくなり、その後、一五年も彼らに会えなかった。
(引用終了)
とは言え、毒が回っていると、イキってしまうものです。
俺は子供の頃から殴られて育ってきたけど、自分は健全に育っている、と。
個人の感想は自由です。
面白いことに、同じ構造がスーザン・フォワードの「毒になる親」の冒頭にも見られます。
「そりゃあ、子供のころ親父にはよくぶたれたけど、それは僕が間違った方向にいかないようにしつけるためだったんですよ。そのこととと、僕の結婚が破綻したことが、いったいどういう関係があるのですか?」(TOXIC PARENTS Dr.Susan Forward『毒になる親』スーザン・フォワード)
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でも、スーザン・フォワードでは自分は響かないと感じる場合は(感覚が麻痺している可能性もあるので)、毒が極まるとどうなるかを追体験すると良いかもしれません。
この「裏切り者」は非常に良い教材です。
アマゾンの「出版社からのコメント」にはこうあります。
(引用開始)
「オランダのゴッド・ファーザー」を実妹が告発!
グリコ・森永事件の犯人がモデルにしたと言われる「ハイネケンCEO誘拐事件」から20年――。実行犯の一人ウィレム・ホーレーダーは釈放後に裏社会をのし上がり、「オランダ史上最悪の犯罪者」と恐れられていた。
本書は弁護士でありウィレムの妹のアストリッド・ホーレーダーが、暴力が渦巻くホーレーダー一家の因縁と、ウィレムの罪を告発し証言台に立つまでの一部始終をつづった手記である。
正義のために実の兄を売る――究極の選択がもたらした結末とは? 父からウィレムへと受け継がれた恐怖による家族の支配を、断ち切ることはできるのか?
オランダで55万部を記録したベストセラー。
(引用終了)
恐怖の家族の支配を我々は仮に「毒」と呼んでいます。
この「毒」を断ち切るには、抽象度を上げるしか無いのです。
最凶の人物(「オランダ史上最悪の犯罪者」)も家族という孵卵器で育つのです。
スーザン・フォワードの「毒になる親」が生ぬるいように感じるのであれば、「裏切り者」から読むと良いかもしれません。