B級一組に陥落したものの、全勝でA級に復帰し、そしてA級でも全勝で名人に挑戦という怪物っぷりを発揮したのが、我らが渡辺明3冠(永世竜王・永世棋王)です。
※最新刊の5巻が出ましたー。
最近では藤井聡太さんの挑戦を受け、棋聖位を明け渡したものの、その後すぐに名人位を獲得しました。
渡辺さんが3冠、藤井聡太さんが2冠です(残りは永瀬さんが2冠、そして豊島竜王です)。
ちなみに、藤井聡太さんが8冠(羽生さんの七冠独占から、叡王位が増えました)を取るときは、最後が名人戦なのではと推察します(順位戦は年単位なので、時間がかかります)。
とは言え、忘れてはいけないのは永世七冠という化け物の羽生さんです。
タイトル通算99期(ぶっちぎりのトップ)で足踏みをして、いま羽生九段と呼ばれる羽生さんです(羽生さんが最近、段位で呼ばれるようになるのは6段のとき以来で、27年9ヶ月ぶり)
(同様に渡辺さんも6段から9段までわずか2ヶ月で駆け上がり、竜王のため七段や八段と名乗ったことはありませんw。最年少9段です)
(ちなみに藤井聡太さんは史上最年少8段。でもこの先、段位で呼ばれることはないでしょう。タイトルで呼ばれるでしょう)。
そう考えると本当に将棋は偶然にも関わらず面白いドラマがたくさんです。
藤井聡太さんの最初の対局が加藤一二三九段であったのは大きなドラマですし、羽生さんが99期で無冠に転落し、足踏みするのも、渡辺さんがB級陥落のあとA級も含め全勝で悲願の名人戦挑戦するのも、初タイトル獲得の最年長記録の千駄ヶ谷の受け師こと木村一基さんに最年少タイトル挑戦の藤井聡太さんが挑戦するのも分かりやすいドラマです。
僕自身は大山康晴先生に千駄ヶ谷駅で一度だけお目にかかったことがあります。
僕自身は、「名人に香を引く」升田幸三さんや「新宿の殺し屋」の異名を取る真剣師小池重明さんなどの世代のため、谷川先生と言うとまだ若かりし頃が浮かびます。
升田先生などは、本当に名人に香車を引かせているから驚きです。
香落ちというのは、駒落ちのハンデ戦ということです。名人からすれば、香車を落とすのも屈辱なら、それで負けるのはもっと屈辱的です(とは言え、、、、、この先、藤井聡太さんに対して駒落ちでないと勝てないという状況になるのではと邪推します。いまのところ豊島竜王は5連勝中ですが、羽生さんや渡辺さんのような化け物でも藤井聡太さんとは互角かちょっと、、という感じです)
通算勝率8割4分の二冠王に5連勝するバケモノがいるらしい。
— 勝又清和 (@katsumata) September 12, 2020
羽生さんもかつて大山15世名人などは、何も考えずに指していたと言います(笑)
いまの清潔感のあるそしてコンピューターを駆使した将棋の世界とは別物で、真剣師や大道詰将棋が跋扈した終戦時のどさくさのような感じが将棋界でした。
コンピューターを駆使したということで言えば、羽生さんと藤井聡太さんは面白いことをおっしゃっています(羽生さんは、人間がコンピューターに負ける年を予言して、当てたことでも有名ですね)。
羽生さんはこう語っています。
「将棋の対局をずっとやってきて思うのは、相手がいないとできないということ。自分一人で棋譜を作ることもできるんですけど、やっぱり個性と個性がぶつかって、そこから生み出されたもののほうが、より深い。考え方や発想が全く違う人との対局のほうが、面白いものが生まれます。結果として勝負はつくんですけど、それ以外にも意義があるのかなと」
勝負よりも重要なものがあるのです。いや、勝負は大事なのですが、勝ち負けだけならじゃんけんでもすれば良いわけで、死力を尽くして戦った結果というのは、ある意味で、ただの結果でしかないのです。
勝ち負けにこだわるよりも、芸術作品として面白いものを作りたいという気概を感じます。
タイガー・ウッズがサドンデスにて、相手がショットを簡単なショットを外したときに、勝利の喜びではなく、露骨に嫌な顔をしたという話があります。
楽しい命がけの勝負に水を指したということでしょう。
勝ち負けではなく、どこまで2人で舞い上がれるかが重要なのです(たぶん)。
同様に、藤井聡太さんはタイトル獲得後のインタビュー(AIについて)でこう答えています。
「数年前、棋士と将棋ソフトの対局が大きな話題になりましたが、今は対決ではなく共存の時代に入りました。自分自身、プレーヤーとして(AIを研究に用いることで)成長できる可能性があると思っていますし、観戦の際の楽しみ(評価値の変動)のひとつになればいいなと思っています。」
非常に穏健で真っ当な回答です。
そこでインタビューアーが食い下がると、
重ねて、
「今の時代においても、将棋界の盤上の物語は不変のもの。その価値を自分自身も伝えられたらと思います」
ここは羽生さんとも通じるものがあると思います。
AIについて言えば、圧倒的な知性を誇るはずのAIが藤井聡太さんの着手を最初、うまく評価できませんでした。同飛車大学は二度出ましたし、渋すぎる3一銀も。
本日の棋聖戦の藤井七段の58手目3一銀は,将棋ソフト(水匠2)に4億手読ませた段階では5番手にも挙がりませんが,6億手読ませると,突如最善手として現れる手だったようです。
— たややん@水匠(COM将棋) (@tayayan_ts) June 28, 2020
7七同飛成が藤井七段のソフト超えの手として有名ですが,ソフト側からすれば,今回の3一銀発見の難易度はそれ以上ですね! pic.twitter.com/vMkHvK9rlp
とは言え、ポイントはAIも間違えるということでしょう(現時点ではという留保付きであっても)。
また、人間より早く走るロボットはいても、人はかけっこをやめないように、人間より早く深く考えるAIが出てきても、将棋はますます盛り上がるということです。まさに共存で。
ただ、共存に必要なのも思考の転換です。
「AIがやっていることは、確率的な精度を上げること。言葉を換えると、全体のなかで最適化を図るということなんです。それが一人ひとりの個人にとって良いことなのか悪いことなのかは、全く別の話なんですよ。そういうものがあるなかで、いかにして自分なりのものを見つけていくのかが問われると思います」
「今ってすごいデータもあって、いろんな分析ができる。それに基づいて判断したり、意思決定したりすることが、徐々に増えてくると思うんです。それは結局、あくまでも全体を最適化しているっていうことで、個人にとってどうかは別の話。逆に、個人から見て一番いい選択だと思ってやっていても、全体から見ると、弊害になっているということもある。だからそういうものを組み合わせて、どうやっていくのかが問われている時代だと思っています」
[「人間が持っている能力を使い切るには、人生は短い」羽生善治はなぜ勝負を続けるのか - Yahoo!ニュース]
というか、、、「もし将棋の神様がいるならば、一局お願いしたい」という発言もそうですが、視点が違うのです。
価値観と言っても、抽象度と言っても良いのですが、まあ、見ている世界が違いすぎるのです。
c.f.♫もしも願いが叶うなら♫神様にどんなお願いごとをしますか?もしビジョンがなければ一切は無意味?! 2020年09月13日
その羽生さんがこんなことを言っています。
「才能が枯渇することはないと思います。人間が持っている能力を使い切るには、人生は短いと思っているので」
才能に対するパラダイムシフトを要するような圧倒的な回答です。
人生は短くないよと叫ぶセネカであっても、この羽生さんの言葉には、たしかに「才能」とか「能力」を考えれば、使い切るには十分に人生は短いかもね、って答えそうです(多分w)。
【書籍紹介】