「お湯を沸かして」という言葉は奇妙な言葉です。
沸かしてお湯にするのですから、「お湯に沸かして」がむしろ文法的にも物理学的にも正確でしょう。
もしくは「水をお湯に沸かして」という方が良いと思います。
でも、僕らは「お湯を沸かして」と言われて、ポットのお湯を出してきて、ヤカン(薬缶)に入れて、それを火にかけるひとはいません。お湯を温めても仕方ないからです。
水を火にかけて、温めます。
それを「お湯を沸かして」という命題に対する行為として、変換して行います。
国立天文台も明日の「日の出」時刻と言います。それに対して、目くじらを立てて、「日は出ない!!」「天動説を信奉するのか!」と怒り出す人はいません(まあ、いるかもしれませんが、0.43%くらいでしょうかw)。
朝に「おはようございます」と挨拶して、「早くないよ」と怒ったりはしません。
(芸能の世界では、その日はじめて会う時には必ず「おはようございます」と挨拶します)
ポイントは何かと言えば、慣用的な表現というものは存在するという当たり前の事実確認です。
骨盤は硬い骨ですから、たしかに歪むことはまれでしょうし、そんな力が加わったら折れるかヒビが入ります。
でも、ASISの位置が水平面に対して3次元に左右差や奥行き差があることを、慣用的に「骨盤の歪み」と呼びます。仙腸関節がズレているということでも、骨盤が骨として歪んでいるわけでもありません。
*ダリ「記憶の固執」
何が言いたいかと言えば、慣用的な表現で現実とはそぐわないけれど、実用的な意味を持っている表現はたくさんあるということです。
ですので、重要なのは、表面的なシニフィアン(言葉)ではなく、シニフィエ(それが指し示しているもの)に注目したらどうだろうか?という提案です。
「お湯を沸かして」と言われて、「お湯はすでに湧いているのだから、沸かす必要はないはずでは?」と答える一休さん的な小賢しさは必要なく、お湯にするべく水を火にくべれば良いことです。
「骨盤が歪んでいる」という表現にも目くじらを立てずに、それが指し示しているものを理解することです。
もちろんより解剖学的に正確に考えることは大切です。
そして慣用的な言葉がどうしても初学者の誤解を招くことは重々承知です。
たとえば、手足や腕や脚などではなく、上肢や下肢と言えば、我々の運動能力は飛躍的に向上したでしょう。
言葉というのは、情報空間を切り裂く部分関数です。部分関数というのは、単なる部分集合というスタティックなものではなく、切り裂くという動的なものです。
我々の手足や腕や脚という概念が、四肢をいわゆる「肩」や股関節で切ってしまいます。しかし、上肢や下肢という言葉であれば、上肢帯である肩甲骨や鎖骨も腕の仲間に放り込めます。下肢であれば、下肢帯とも言われる腸骨を脚の仲間に放り込めるのです。
体幹に対する理解も、直方体のイメージや筒のイメージではなく、むしろひし形というかひし形の宝石のようなイメージに変わります(多分w)。腹横筋はコルセットですが、ひし形状のコルセットです。
ですから、言葉を更新していくのは大事ですし、学ぶのは大事です。
ただ、慣用的表現が正確ではないと目くじらを立てるのはいかがなものかと思うだけです。
筋膜リリースというと、筋膜はリリースするのですか?という質問が当然に出てきます。
もちろん「リリース」をどう定義するかによって、意味が変わってきます。
いわゆる「筋膜を剥がしたり、伸ばしたりすることはできない」という意見はよく分かりますし、その通りでしょう。
でも、同じ施術家同士ですから、いわゆる筋膜リリースと呼ばれる手技(単に押して圧をかけるワーク)によって、クライアントの状態が変化し、可動域が改善するという結果は知っているはずです。
ですので、その成功の果実だけを得れば良いのではないかと思います。
背骨の矯正なども同じです。ボキボキやるかどうかはともかくとしても、背骨の矯正が指し示しているのは、背骨のアライメントの修正であり、アライメントの修正は脊椎ではなく脳で行います。そして筋肉によって、骨の位置を変えていきます。
「背骨は鎖のようなもので、矯正などされない」というのは、その人の定義によるその人の批判であって、独り相撲のようなものです。
異世界へ転生して、そこにいる人々が「日が昇る」と言っているからと言って、彼らが天動説を信奉すると判断する理由にはなりません。「太陽の恵み」とか「お天道様が見ている」と言っているからと言って、彼らが太陽信仰を持っているとは限りません。
高度な科学水準を持ちながら、慣用的な表現を大事にしているだけなのかもしれません。
筋膜リリースについては、代替案としては「指圧」です。ただ、指以外で押すことが多いので、「指圧」という言葉はまた誤解を招きます(掌底で指圧とか言うのもおかしいですし)。
じゃあ、指圧から指を取って、「圧」というのも変です。
ですので、僕らは圧を加えることを筋膜リリース、筋繊維の走行に向かって伸ばすことをストレッチと言っています。
筋膜リリース・・・筋肉や腱や靭帯に対して適切な圧を加えることで、それらをゆるめる
ストレッチ・・・・・筋繊維の走行に対して、適切に筋繊維を引っ張ることで、それらをゆるめる
という感じです。
平たく言えば、
筋膜リリース・・・圧
ストレッチ・・・・・引っ張る
です。
とは言え、ストレッチにまつわるいろいろな間違いが気になるので(その破壊力にも)、ストレッチ禁止と「まといのば」では開所当初から言っています。
そして、「いや、ダンサーはストレッチしているじゃないか」という批判に対して、「いや、ダンサーがしているストレッチとあなた方がするストレッチは似て非なるもの」と応えています。彼らがやっているのはウォーミングアップです。
(ですので、論文でもエビデンスベースでも言われる、ストレッチするとパフォーマンスが下がる説というのは、それは正しいストレッチじゃなくて、筋肉破壊行為だからって思いますが、、、黙っています。実際に柔軟性に関して素人のアスリートたちがやる「ストレッチ」もどきは、傍から見ていても相当に怖いくらいに身体を壊しています)。
言葉の問題は難しいですし、施術はもっと難しいです。
でもまあ、お互いにクライアントの身体を改善して喜んでもらいたいと思っている同士ですから、「お湯を沸かす」レベルの争いをせずに、楽しく全体で進化していきたいものです。
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