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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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「神は死んだ。死んだままだ! そして神を殺したのはわれわれだ!」(ニーチェ『悦ばしき知識』)

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白昼にランプを灯(とも)して市場(いちば)に走ってくる狂人。
彼は「わたしは神を探してる!」と叫んでいます(最近であれば、「おれは、自分を探している」とインドまで飛んでいくのかもしれませんが)。

ハイデガーが肯定的に紹介したことであまりに有名になったニーチェの「神の死」です(ハイデガー『ニーチェの言葉〈神は死せり〉』)
ニーチェと言えば「神は死んだ」ですが、ツァラトゥストラ以前にまずこの白昼にランプを灯す狂人の口から語られます。

(引用開始)
神はどこへ行ったのか。私がそれを教えてやろう。われわれが神を殺したのだ!
おまえたちとわたしとが!……神は死んだ。死んだままだ! そして神を殺したのはわれわれだ!

(引用終了)

Gott ist todt! Gott bleibt todt!
Und wir haben ihn getödtet!

God is dead. God remains dead.
And we have killed him.
(Wikipedia)

「神は死んだ」という叫びは強烈です。

たしかに神は受肉し、2000年前に処刑されました。イエス・キリストの磔は神の殺害であっとみなしうるというのは寺子屋「神学」でも話題になりました(解放神学の一つの思想として)。

2000年前と言えば「2001年宇宙の旅」(キューブリック)の冒頭はツァラトゥストラです。

*リヒャルト・シュトラウスがニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」にインスピレーションを受けて作曲した交響曲です。ディオニュソス的とは音楽ということでもあります。ワーグナーが好きだったニーチェはこの曲を聴いたら何と言ったのでしょう。ニーチェの処女作である「悲劇の誕生」はワーグナーに捧げられたと言っても過言ではありません。
ちなみに、ワーグナーと言えば、ホーキング博士もワーグナーが好きです。ホーキング博士を描いた映画「博士と彼女のセオリー」の中で病名を知って絶望するシーンでワーグナーが流れます。
ちなみに「博士と彼女のセオリー」で最も最後に撮影されたというあるベッドでのシーンはアドリブだったそうです。裏話を聞けばますます感動的です


神は死んだ。死んだままだ! そして神を殺したのはわれわれだ!」という狂人の叫びがまずありました。
それを受けて、ツァラトゥストラは山を降ります(いや、もちろん「悦ばしき知識」と「ツァラトゥストラ」が話として続いているわけではありませんが。ただ、ニーチェの中では深くつながっています。「ツァラトゥストラ」を妊娠している途中に胎動と共に生まれたのが「悦ばしき知識」です。「この人を見よ」p.181に記述があります)。

そして老いた超俗の人と語る中で、彼らが神の死を知らないことに衝撃を受けます。


(引用開始)
しかし独りになったとき、ツァラトゥストラはこう自分の心にむかって言った。「いったいこれはありうべきことだろうか。この老いた超俗の人が森にいて、まだあのことをなにも聞いていないとは。神は死んだ、ということを(ツァラトゥストラ第1部2)(引用終了)

そしてある町の市場に入り、綱渡り芸が催されるために集まっている人びとに向かって、こう語り始めます!

(引用開始)
 わたしはあなたがたに超人を教える。人間とは乗り越えられるべきもあるものである。(略)
 かつては、神を冒涜することが最大の冒涜だった。しかし、神は死んだ。
(引用終了)(ツァラトゥストラ第1部3)


*ムンクの描くニーチェ


処女作である「悲劇の誕生」はともかくとして、「ツァラトゥストラはかく語りき」などは哲学書と思えない文体です。いわば物語です。
ギリシャ哲学において、Logos(論理、言語)の対概念はmythos(ミュトス)です。ロゴスが論理なのに対して、mythosはいわば物語です。神話(myth)の語源でもあるミュトスですが、ロゴスが真理を指し、ミュトスがフィクションというニュアンスはここでは当たりません。

論理は非常に重要ですが(そして神話にも物語にも、論理が当然ながらありますが)、いわゆる「語りえないことを語る」ためにはミュトスが必要なのだと思います。

悟りを開かれた釈迦が、この悟りの精妙なることはこの上なく、またその悟りを頭の不自由なものに伝えるのは悟りに対して正しい取り扱いではないと考えるシーンがあります(イエスは有名な「豚に真珠」という言葉を同様に残しています)。
だからこそ、悟った自分は涅槃にすぐさま入るのが良いと自殺しようとします。そこで梵天勧請ということで、梵天さまが引き止め工作を行い、釈迦は対機説法という手法を編み出します。
人を見て法を説くようになります。

イエスもそうですが、二言目には「律法には何と書いてあるか?」と問うのはまさに対機説法です。

自分が分かっていることを素直に伝えれば、伝わるというのは、バベルの時代の神話です。
自分が分かっていることをどんなに伝えても原理的に伝わらないからこそ、相手の中にそれを見出すというのがポイントです。ソクラテスの弁証法とは、産婆術としても知られ、ソクラテスは相手に質問を積み重ねることで、相手の中から知識を引き出しました。

人は押し付けられた知識を軽視し、もしくは認識できず、自ら見出した知識を認識し、大事にします。

だからこそ、ミュトス(物語)が重要なのです。
小さな小さな井戸の中で真実を探求するだけなら、ロゴス一辺倒で問題ないのです。ジャーゴン(仲間内だけの隠語、専門用語など)だけで、世界がわかった気になれます。
しかし、井戸の外に出たら、むしろこのツァラトゥストラ的なミュトスこそが大切になります。

とは言え、そのことが分からず、若いころはニーチェを読みながら、イライラしていました。
「この物語部分は全部カットして、結論だけ書いて」って思っていました(若気の至りというか、バカです)。

たとえば、、、、

神は死んでるのにも関わらず、その影につき従うのではなく、この神無き世界の虚無的なありかたを受け入れ、しかし「それにも関わらず」イエスと言おう!
キリスト教的な過去から未来への直線的な時間の流れを否定し、輪廻転生の劣化コピーのような永劫回帰(まさに時の輪廻の蛇。まるでアインシュタイン方程式のゲーデル解)の中で、その狂いそうな苦しみとショーペンハウエル的な虚しさの中で「それにも関わらず」“Yes, we can!”(古いですね)と言おう!というのがニーチェの思想です!(多分)

Yes We Can!-オバマ・クラシック/エイベックス・エンタテインメント



でも、そのようなサマリー(まとめ)こそ試験の役にしか立たないゴミでしかありません。

ニーチェを味わうには、ニーチェと格闘するしかないのだと思います。
推理小説を最初から最後まで読まずに、犯人と犯行の手口だけを知っても、それはさすがに味気なさすぎます。

とは言え、無闇に読むのも辛いので、良きガイドと共に楽しく歩みましょう!

寺子屋「ニーチェ」の追加開催は4月8日(水)(奇しくもお釈迦様のお誕生日)。
お楽しみに!!!


【引用開始】
ニーチェに全く興味が持てないという人は最近ブームのニーチェの言葉本を読むと面白いかと思います。ニーチェはその箴言(しんげん)が痺れます。
思想はもっとしびれます!
森鴎外風に言えば、酔えます。しかし酔ってはいけない美酒なのです。チェーザレ・ボルジアは毒入りワインを飲み、それが死に至るきっかけになりました。ニーチェの思想もよく酔えますが、我々には毒入りなのかもしれません。

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