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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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「おまえは私を殺さなくてはいけない」〜空を見上げて〜創世神話とトウモロコシ〜

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本日、寺子屋集中講座「現代物理学の風景」です!!

寺子屋「ビッグバン宇宙論」のレジュメの最初はトウモロコシの写真から始まります!

今回の集中講座の最初の講義はビッグバン宇宙論です。ビッグバンから宇宙が始まるとしたら、ビッグバン宇宙論から集中講座が始まっても悪くないでしょう。

ヘブライ語で創世記はin the beginningです。「最初に」ってことですね。ビッグバンも宇宙創成の最初の最初です(まあインフレーションを別にすれば)。アップルパイを最初からつくりたいときもビッグバンからはじめなければなりません(そういえば、「最初から」の意味の“from scratch”がアラン・チューリングの映画である「イミテーション・ゲーム」でも使われていました。0時になるとエニグマの暗号の設定が変わるので、それまでの解読が無になって最初から(“from scratch”)やり直さないといけないのです)
If you wish to make an apple pie from scratch
You must first invent the universe
(もし、アップルパイを最初からつくろうと思うなら、君はまず宇宙を作らなきゃ)



*アラン・チューリングの天才を知る人には必見の映画です。本当に細部に至るまで作り込んであります。


閑話休題

で、なぜ、ビッグバン理論にトウモロコシ??と思われるかもしれませんが、これは神話から来ています。




物理学とかビッグバンというと何か私たちとは切り離された世界のことのように感じますが、物理学とはモノの理(ことわり)の学問であり、ビッグバンとは我々の宇宙創造の神話です。

ジョセフ・キャンベルのこれまたインタビューにおいてこんな1節があります。
ちなみに、ジョセフ・キャンベルは神話学、比較神話学を学ぶ上では欠かせない人だと思います。内容というよりは、その世界観が素晴らしいと思います。まさに焚き火の周りで長老が語ってくれているような雰囲気があります。ジョセフ・キャンベルの神話学というのは身体に溶け込ませたいものです。

ジョセフ・キャンベルの「神話の力」からの1節です。

(引用開始)
キャンベル  自分たちの食用となる植物は、犠牲にされた神または先祖の、切り刻まれて埋められた体から生えたものだというモチーフが、至るところで見られます。特に太平洋文化圏に顕著です。
 こうした植物に関する物語は、意外にも、南北アメリカの私たちがふつう狩猟地域と考えている地域にも広がっています。北アメリカの文化は狩猟文化と農耕文化とが相互に作用し合っている非常にいい例です。インディアンたちは、主として狩猟民でしたが、同時にトウモロコシの栽培もしていました。トウモロコシの起源についてのアルゴンキン族の物語では、幻視を体験したひとりの少年のことが語られています。そのヴィジョンのなかで、少年は、頭に緑の羽飾りを若者を見る。若者は少年に近づいて、レスリングをしようと言います。そこでレスリングをすると、若者が勝つ。若者は何度も何度もやってきて、少年とレスリングをしてはいつも勝つ。そのうちある日、若者が少年に、「この次には、おまえは私を殺さなくてはいけない。そして死骸を土に埋め、埋めた場所によく気を配るように」と言う。少年は言われたとおり、その美しい若者を殺して土に埋めた。しばらくたって少年が行ってみると、羽飾りをつけた若者を埋めたところからーー植えたところからと言ってもいいでしょうーーートウモロコシが生えていた。
(ジョセフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ「神話の力」p.228)

ここでのポイントは若者は神であり、神殺しによって、狩猟文化から農耕文化への覚醒が起こるということです(物語の終わりで、少年は父親に言います。「これでもう、ぼくたちは狩りに行かなくてもいいんだ」と。pp.228-229)

頭に緑の羽飾りを若者を殺して埋める(植える)ことで、そこからトウモロコシを得ます。

この物語が普遍的であることを示すべく、キャンベルはこんな例を出します。

「この次わたしがおまえのところに来たら、おまえはわたしを殺し、首を切って頭を土に埋めなくてはいけない」と。娘は言われたとおりにした。すると若者の頭を埋めたところから、ヤシの木が生えた。(p.229)

まさに神話のおどろくべき共通性です。ユングが元型論を語りたくなるのも分かります。
比較神話学のポイントは神話があまりに普遍的であるということです。

200年くらいしたら、きっと普遍文法(チョムスキー)も神話の構造(キャンベル)も元型論(ユング)も統一的に説明されてそうです。その日が楽しみですw

トウモロコシの話は創世神話ではないのですが、神話であることは間違いありません。
神話というのは、遠い世界の話しではなく、いまここに響く何かについて語ります。
たとえば、日々口にしているトウモロコシであったり、椰子の実の話です。

現代の創世神話であるビッグバン宇宙論も同様です。「いま、ここ」に響く内容こそが創世神話を形作っています。

(引用開始)
たくさんの銀河のなかにわたしたちの銀河がある。わたしたちの銀河のなかに太陽系がある。こうしてみると、いま私たちが知りかけている宇宙の途方もない大きさが感じられます。そういう銀河系の図が見せてくれるものは、想像もつかぬ大きさと、理解を超えた力とを備えた宇宙のヴィジョンです。轟音を発している何十億、何百億の熱核反応炉が至るところに散らばっている。それぞれの熱核反応炉がひとつの星で、私たちの太陽もそのひとつです。その多くがまさに爆発を起こして飛び散っており、宇宙の果てに塵やガスを放ち、それからまた回転する惑星を伴った新しい星がいま生まれつつある。それだけではなく、それらすべてのはるか遠くからさえも、いかなる驚天動地の爆発よりも大きな爆発ーー一説によれば、一八〇億年前に起こったとも推定されるビッグバン創造ーーのこだまであるつぶやきが、マイクロウェーブが、伝わってきている。
 そういうところにいるんですよ、私たちは。それを自覚したとき、自分が実はどんなに大事な存在であるかも自覚できるんですねーーーものすごい大きさのなかにあるひとつの微粒子的な存在ではありますが。その自覚のあとに、自分とそれとがある意味では一体だという経験がやってくる。そうすると大宇宙のすべてに参入することになるのです。

モイヤーズ そして、それはいまここから始まる。

キャンベル ここから始まるのです。

(引用終了)pp.386-387

核融合炉としての星々があり(音を媒介する空気がないので、それが轟音をたてるかどうかは別として)、その核廃棄物として我々の地球もこの身体も存在します。ビッグバンの残骸が星になり、星の残骸が我々の身体を構成します。そしてビッグバンの残り火(キャンベルに言わせれば「こだまであるつぶやき」)がドップラー効果で引き伸ばされてマイクロウェーブにまで引き伸ばされて3K背景放射として全宇宙から降り注ぎきます。
宇宙は巨大な電子レンジです。それも断熱膨張する電子レンジです。

そして、我々自身と宇宙を区別する境界線が存在しないことに気付けば、「自分とそれとがある意味では一体だという経験」「大宇宙のすべてに参入することになる」というわけです。

我々をそれを梵我一如や、悟り(「差を取る」からサトリと言うなどという俗説もありますが、まさに差分がなくなり、宇宙と一体になる体験を悟りと呼びます)として知っています。


もちろんここでのポイントは現代の創世神話であるビッグバン宇宙論もトウモロコシと同じく、いまここで起きていることが、180億年前の爆発と関係しているということです。

いま全宇宙から降り注ぐ等方で均一な不思議なマイクロ波はビッグバンの残り火であり、我々の肉体を構成する元素を形作っているのもビッグバン以来の長い歴史の賜物です。トウモロコシと同様かそれ以上に直接、私たちと関係しています。

ミンコフスキーはかつてこう言いました。

あ、ちなみに、ご承知のようにミンコフスキーはアインシュタインの大学の先生です。出来の悪い生徒に苦しめられたそうです。そしてなんの因果か、特殊相対性理論を数学的にまとめあげた恩人でもあります。ミンコフスキーにとってもアインシュタインにとっても意外な体験だったのではないでしょういか。

もっと、ちなみに、ミンコフスキーの大学時代の同窓にヒルベルトがいます。ヒルベルトをして「最良にして本当の友人」と言わせしめ、ヒルベルトの尽力もあり、最後はゲッティンゲン大学で数学の教授をしています(ちなみに、その前にいたのがチューリッヒのスイス連邦工科大学。そこに若き日の数学嫌いのアインシュタインがいました)。

余談ついでに、ヒルベルトは天才フォン・ノイマンを見出し、ゲッティンゲン大学に招きます。
そしてそのフォン・ノイマンは後にアインシュタインと共にプリンストン高等研究所の所員となります。プリンストン高等研究所にはほかにオッペンハイマーやゲーデルもいました!豪華です。


で、ミンコフスキーです。

ミンコフスキーは時間と空間を統合したアインシュタインの特殊相対性理論の新しいシンプルな記述法としてミンコフスキー空間を発表します。

そのときのミンコフスキーの言葉を引用します。

(引用開始)
「空間と時間に関し私がここで展開したいと思っている視点は、実験物理学の土壌から芽生えたものであり、その力強さを内に持っている。この視点は革新的なものであり、これからは空間それ自身であるとか時間それ自身であるとかいったような概念は陰にすぎないところへと消え去っていくことになる。そしてこの両者を合わせたもののみが独立した実在としてあり続けることになる」

— ヘルマン・ミンコフスキー、Assembly of German Natural Scientists and Physicians, 1908年9月21日
(引用終了)

これからは空間それ自身であるとか時間それ自身であるとかいったような概念は陰にすぎないところへと消え去っていくことになる。」とは詩的ながら、力強い宣言です。
そしてこの両者を合わせたもののみが独立した実在としてあり続けることになる
これがミンコフスキー空間です。時間と空間ではなく、時空という一つの独立した実在となった瞬間です。


*cone(円錐)です。corn(トウモロコシ)ではなくw

時間と空間について本質的に考えるときは、夜空を見上げると良いように思います。

すると、我々は遠くを見れば見るほど、過去を見ていることに気付きます。

昼間に太陽を見てもそれは8分前の太陽でしかなく、現在の姿を見ることはできません(想定することもできるかどうか分かりません)。10万光年離れた星は、10万年前の姿でしかなく、100億光年先の光は、100億年前の姿です。
遠くを見れば見るほど過去に遡り、我々はいながらにして、タイムスリップを楽しめます。
目の前に「いま」見えているのは、「過去」の出来事だからです。

そして理論的に考えれば、夜空を見上げるということは、宇宙創造の瞬間を我々は目にすることになるということです。うっすらと宇宙創成の残り火であるマイクロ波を感じます(いや意識に上るほどには感じませんが、我々の延長された眼球であるハッブル望遠鏡を通じて、ビッグバンの残り火を観ることができます)。




ということは、夜空を見上げた瞬間に過去のすべてをビッグバンに至るまで一望することになります。


アインシュタインの有名な言葉である「過去現在未来の違いは幻想にすぎない」を思わせます。現在見上げている宇宙は過去の宇宙なのです。
(洒落た言い回しですが、世を去った長い友人に向けての言葉です)

Now he has departed from this strange world a little ahead of me. That means nothing. People like us, who believe in physics, know that the distinction between past, present, and future is only a stubbornly persistent illusion.Wikiquote

夜空を見上げて、できれば焼きトウモロコシをかじりながら、現代の創世神話について思いを巡らしましょう!!


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