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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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【寺子屋「ポアンカレ予想」】リッチ・フローにおけるエントロピーとは何か?

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ポアンカレ予想とは何でしょう。

単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S^3 に同相である。

とあります。ポアンカレ自身の表現は少し違いましたが、それはフェルマーの最終定理の表現がフェルマーと我々で違うのと同じです。より数学の言葉が洗練されることで、分かりやすく厳密で直観的になります。

3次元閉多様体というのは、わかりづらいので、いつもながら次元を落として考えます。

では、3次元ではなく、2次元閉多様体とは何でしょう。2次元閉多様体とは3次元のモノの表面です。

たとえば地球は3次元空間の存在なので、その表面は2次元です(という直観的に内容もまた厳密に数学で証明するのは大変なことでしたが)。我々は地表面の座標であれば、緯度経度という2つの数字で表せることを知っています。まさに2次元です。

1次元ならば、1つの数字であらわせます。x軸は1次元なので、数字を1つ指定すれば、場所が指定できます。デカルト平面は2次元なので、2つ数字を指定すれば場所が決まります。(x,y)です。3次元なら、3つ。n次元ならn個です。




ですので、3次元閉多様体は4次元の存在の表面です。もちろんイメージはできません(サーストンはできたのではと言われますがw)。僕らがイメージできるのは、3次元の表面の2次元球面(2次元閉多様体)のみです。

ちなみに多様体というのは、Wikipediaでは「局所的にはユークリッド空間と見なせるような図形や空間(位相空間)のことである」とあります。

何を言っているのでしょうか?

端的に言えば、局所的な地図はユークリッド平面として平らな地図として書けるけど(チャート)、それを集めていくと地球(アトラス)になるとしたら(正確には地球の表面)、それは多様体ということです。

昔、ふくらませた風船のまわりに、湿らせた新聞紙をペタペタ貼ったのを思い出します。
新聞紙は明らかにユークリッド平面です。局所的にはユークリッド平面をペタペタ貼るのですが、全体としては多様体です。


で、次に、3次元球面とは何でしょう。

これも次元を落として、2次元球面を考えましょう。丸い3次元のモノの表面が2次元です。我々の地表面が2次元ですね。空海が見た水平面も実は水平ではなく、2次元球面であったということです。

ちなみに、では1次元球面とは?これは2次元空間という平面におかれた球面なので、円になります。円の縁が1次元球面です。

そして、0次元球面が、1次元空間に埋め込まれた球面ですので、これは点となります。
ユークリッドを思い出しますね。ユークリッド原論の定義では、直線(線分)の端は点でした。


単連結というのは、その表面にゴムを這わせたときに、そのゴムがスタート地点で回収できるということです。僕らが考える二次元球面であれば、穴が無いというのと同じことです。


地球のような球体であれば、どのようにゴムをかけたとしても、そのゴムはひっかかることなく回収できます。



しかしベーグル(ドーナツ、浮き輪、トーラス)であれば、ゴムは回収できません。

これは2次元閉多様体のケースです。これを一つ次元を上げたのが、ポアンカレ予想です。

2次元閉多様体は3次元に埋め込まれますので、イメージしやすいです。

三人の数学者が立方体を見て、それぞれが何と言うかというジョークを以前、紹介しましたが、トポロジストはこれを見て「球」と言います。表面も二次元球であり、立方体自身も三次元球です。


そのまま2次元多様体で考えましょう。

そうすると、サーストンの幾何化予想の2次元版が分かります。
サーストンは3次元多様体は8つのブロックに分けられると言いました。DNAが4つの文字で書かれているように、アルファベットが26文字であるように、数少ない要素が無限のバリエーションを生み出します。三次元多様体の場合は8つの構成要素の無限の組み合わせということです。

ちなみに、2次元多様体の分類(サーストンと同じような)をしたのは、我らがポアンカレとパウル・ケーベです。1907年のことでした。共同研究ではなく、同時に証明しました。ちなみに、アインシュタインと同じ時期にポアンカレも特殊相対論には行き着いていました。研究というのは個人の孤独な作業ですが、同時に時代性というか、同じ時に同じ研究をしているということはよくあります(エジソンとベルなども)。

というわけで、二次元多様体の分類です。これは結論から言えば、単純です。

リーマンの登場です。すなわち、ユークリッド、リーマン、ボヤイ・ロバチェフスキーの3つの空間です。ユークリッド平面、リーマン平面、ロバチェフスキー平面ということです。
それぞれ曲面の曲率が0のとき、そしてプラスのとき、マイナスのときでした。

我らが地球も、我々の日常感覚で言えば、まっ平らな(曲率0の)ユークリッド平面ですが、実際は曲率が正のリーマン平面(球面)であることが分かっています。

もちろんトポロジストにとっては曲率はどうでも良いものですが、しかしこの一意化定理を用いれば、この3つの基本的な構造(ユークリッド平面、リーマン平面、ロバチェフスキー平面)を用いれば、あらゆる二次元におけるトポロジー的な物体をつくることができます。

たとえばベーグルをつくるには、ユークリッド平面のノートを破って、くるっとまるめて、頭とお尻を貼りあわせます。
プレッツェルならば、ロバチェフスキー平面から多角形を切り取って貼り付けていけばできます。

トポロジーというグニャグニャな幾何学では曲率は関係ないとは言え、曲率も便利なものです。

そしてペレルマンはこの曲率を熱に見立てたリッチフローによって、ポアンカレ予想を解決します。
もちろんこのリッチフローとはハミルトンの発明です。

リッチフローというのは、リッチテンソルを多様体のスケールの変化に関連付ける微分方程式です。
そもそも曲率を論じるにあたって、それが1次元であれば、数値は一つで事足ります。
線路のいわゆるR(半径)がそうです。線路は1次元の存在(直線や曲線)と考えて良いのである点の曲率を示すためには1つしか数値はいりません。



ですので、テンソルまで使わなくても良いのです(もしくはスカラー量として考えれば、テンソルの特殊型ですね)。

ただたとえば二次元曲面なら、曲率を表すのに、x軸方向、y軸方向と二つの数値が必要でしょうし、3次元ならばもっとです。

ですので、テンソルを用います。テンソルというのはいわば行列のお化けのような存在です。


*これは行列


ですので、テンソルと言ってもここでは、単に各点の曲率を示すと考えれば良いことです。道路や線路のRですね。道路や線路のRはその場所の曲がり具合を大きな円の弧と考えて、その円の半径を示すことです。ですから、直線の道路や線路であれば、接する円の半径は無限大ということになります。数字が小さくなればなるほど、曲がりはきつくなります。


リッチテンソルは多様体の曲率を示し、スケールは多様体上の距離の尺度となります。正確には距離の変化率の尺度です。ハミルトンの工夫は、リッチフローという微分方程式が、各点におけるこれら二つの曲率とスケールという量をマイナス符号でコネクトさせたということです。

そうすると、どのように多様体が挙動するかと言えば、たとえばある多様体が曲率が負だと膨張し、曲率が正だと収縮するのです。そうやって整形されていきます。

(引用開始)
 多様体が全体に正の曲率を持つと仮定しよう。ただ局所的には曲がり具合が異なっても良いとする。曲率とスケールのあいだの負の相関から、曲がり具合の大きな場所ほど、スケールは小さいことになる。スケールが小さくなると、近い点どうしは互いにさらに引き寄せられ、曲率が大きくなる。この結果、正の曲率を持つ多様体はますます丸まり、急速に収縮する定曲率の多様体となる。こうなると、この多様体はどんどん丸みをきつくし小さくなりつづける。しばらくすると、すっかり小さくなった球面が、もうそれ以上小さくなれない局面に至る。するとそれは、煙のごとく「パッ」と消え去ってしまう。
 このようにハミルトンのアイデアは実にシンプルなものだった。どんなによれよりの多様体でも、ひしゃげた多様体でも、ねじれた多様体でもいい、リッチフローによって変形する様子を見守る。どんな形になるだろうか・もし八個の素多様体のうちの一つか、その組み合わせになれば、サーストン予想が正しいことになる。さて、ここが話しのサワリである。どんなによれよれでも、ひしゃげていても、ねじれていても、すべての単連結な多様体が最終的に跡形もなく「パッ」と消えたなら、ポアンカレ予想が証明されたことになるのだ!

(引用終了)(ポアンカレ予想 pp.309-310)

とは言え、そうは問屋がおろさなかったのがハミルトンの悲劇でした。特異点が次々と出てきてしまうのです。コンタミのようなものです。ノイズです。とは言え、取り除かないと先へ進めません。
この特異点があらわれることで、どうしても曲率というトポロジーの熱をつかった多様体の加熱実験が失敗するのです。

ちなみに特異点として厄介なものの一つが葉巻型特異点でした。

これさえクリアできれば、リッチフローはうまく機能し、ポアンカレ予想どころかサーストンの幾何化予想までクリアできて、万々歳です。


ちなみにペレルマンはリッチフローは専門外だったものの、特異点に関しては専門でした。

サクッと、ペレルマンの業績を確認しましょう。

まず彼はハミルトン・プログラムを拡張して、あらゆる多様体に作用するようにしました。
そして生じる3つの特異点を考察します。
葉巻型以外には、球面と長細い円筒(サーキット、キャップ、ホーン)です。
球面はサーストンによって予想されたものですし、取り除けます。

円筒体は特異点になるまえに手術で取り除きます。円筒を終端近くで切り離し、すべての開口部にキャップをかぶせて閉じます。そうして、それぞれの段階で切り離した病変部がサーストンの機械化予想の8つの構成要素に該当することを確認して、おしまいです。

もちろん、これ以上特異点がつくられなくなったら、その多様体をチェックして、サーストンの言う通りであることを確認します。

時間をさかのぼれば、多様体はサーストンの8つの構成要素のいずれかから構成されたことが分かります。

これが標準近傍定理です。ペレルマンは強く湾曲した領域が、球面や円筒型特異点と類似していることを示し、上手に操作すれば、球面や円筒の形に近づけることができて、最後には球体へ変形させるか、円筒を切り離せます。

これで、球面と円筒は終了ですが、ハミルトンの心を折った葉巻型特異点はどうなるのでしょう。

これは手術では取り除けない病変です。

ところが驚くことに、ペレルマンはそんな病変(葉巻型特異点)が生じないことを示しました。
これには放物型リスケーリングなる道具を使いました。

(引用開始)
それは放物型リスケーリングと呼ばれ、多様体の変化する様子を、もっぱら特異点の生成に注意を払いつつ、顕微鏡を用いて撮影していくようなものである。多様体が縮んでいくにつれて、多様体の映像はスローモーション化され、同時に拡大されていく。スローモーション化も映像の拡大も間断なく続くが、そこには偏りがある。つまり、映像がスローモーション化されつつ、拡大されるとき、それぞれの時間スケールでの拡大率は線形ーーすなわち二倍、三倍、四倍・・・・という増加の仕方ーーとなる。しかし、距離は、1/√2、1/√3、1/√4、というようなスケールダウンの仕方をする。
(引用終了)

ここでエントロピーが出てきます。

そもそもハミルトンは曲率を熱のように扱いました。曲率の伝播を熱の伝播になぞらえてリッチフローを編み出しました。

ペレルマンは多様体が放物型リスケーリングを受けるときに、そこに不変となる計量を見出したのです。それは統計物理学のエントロピーと似ているので、放物型リスケーリングにおけるこのエントロピーと似た振る舞いをする計量をエントロピーと名づけました。
すなわち、たとえば、物体が加熱されると、分子の不規則性が増加し、それはエントロピーが増加することです。同じく多様体がリッチフローによって温められて、変形していくと、このペレルマンのエントロピーも増加していくのです。

もう一つのペレルマンのトリックは「マックスウエルの魔」です。熱力学第二法則(エントロピーは拡大する)を破壊する知性がマックスウエルの魔でしたが、ペレルマンはそれを時間を逆転することによって成し遂げました。
時間を逆転させたリッチフローによって、多様体を観察して、「温度」がどう変化するかを調べたということです。

ちなみに放物型リスケーリング効果のある不思議なペレルマンの顕微鏡で観察すると球面特異点は不動の球面のように見え、円筒形特異点は静止した円筒に見えます。

しかし問題の葉巻型特異点は大騒ぎして、活発に変化します。そしてそれはどこまでも強く湾曲し、最後には崩壊します。

この厄介な存在に対して、ペレルマンは鮮やかに処置します。

すなわち、エントロピーの概念を用いて、多様体が実はあまり強く湾曲できず、そして球のようにパッと消え失せる多様体を除けば、放物型リスケーリングという条件下では、多様体はリッチフローという熱源によって崩壊することができないことを示したのです。

これは局所非崩壊定理です。

リッチフローによれば、葉巻は最後には崩壊します。しかし放物型リスケーリングのいては、リッチフローの中で崩壊できません。

これは明らかな矛盾です。

すなわち、葉巻型特異点はそもそも出現しないということです。

これがラスボスなのでしょうが、まだまだ局地戦が残っています。

まずは「無限回の手術を有限時間内に完遂しなくてはいけないのか?」という問い。これに対してはペレルマンは「そんな必要はないこと」を証明しました。

その上で、「自明が基本群を持つ多様体は無限回の手術を必要としない」ことを証明します。

とは言え、煩雑すぎますし、残念なことに余白もそれほどありません(^^)


我々は息も絶え絶えかもしれませんが、仮のゴールテープを切りましょう!


*偉大なペレルマン


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【場所】 東京・四ツ谷の「まといのば」の新セミナールーム
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(1講座あたり、基本的には銀行振込でお願いします)
【受講資格】 ブログ読者
【持ち物】 筆記用具と向上心と情熱
【お申し込み】お申し込みはこちらから。

【講座詳細】
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19:00~21:30
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