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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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論じなければならない問題が一つ残る(ポアンカレ)〜ケーニヒスベルクの橋を渡りながら〜

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ポアンカレ予想を一言で言えば、

単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S^3 に同相である。

ということですが、すでに紹介したようにポアンカレ自身はこう書いています。

(引用開始)
 論じなければならない問題が一つ残る。
 Vの基本群が恒等変換に帰着し、しかもVが単連結でないことがあり得るだろうか?
(引用終了)
(ポアンカレ トポロジーp.258)

ここでVは多様体を表わしてます。多様体の基本群が恒等変換に帰着されるというのは、単位元に還元されるということです。すなわち、多様体が自明な基本群ということです。

余談ながら、ここでも「群」や「元」という言葉が使われているように、フェルマーの最終定理同様にポアンカレ予想も群論がベースにあります。群とはgroupのことです。

フェルマーの最終定理では、楕円曲線上の点の集合がアーベル群を成すことがポイントでした。楕円曲線上の点の集合が群を成し、それも加算において閉じているアーベル群(加群)を構成しているゆえに議論が一気に楽になりました(楽というのは言いすぎですが、手も足も出ないことに比べれば、証明への道筋が見えるということです)。

なぜフェルマーの最終定理のような整数論の問題と楕円曲線論が関係するのかと言えば、シンプルです。端的に、フェルマーの最終定理を読み替えて、フェルマーカーブとして、その曲線上に有理点が存在するかを議論すれば、それはフェルマーの最終定理と同値になるからです。有理点が一つもないということは、フェルマーの最終定理において、自然数解がないということです。

実際、FLT(フェルマーの最終定理)とはある意味で悪魔の証明に似ています。自然数解の不在を証明しなくてはいけません。

ですので、絡め手を採用します。すなわち、背理法です。
背理法というのは、ある命題を示すときに、あえてその命題を否定してスタートして、矛盾を導くという方法です。たとえば√2が無理数であることを示したい場合に、√2が有理数であるとあえて仮定して、矛盾を導きます(ピタゴラスが狂気に陥った証明ですね)。

まず



を満たす自然数解が存在するとします。すなわち、フェルマーの最終定理の反例が存在するとします。

その自然数解をa,b,cとして、フライは特殊な楕円曲線をつくります。通称、フライ曲線です。



そしてその挙動を調べると、楕円曲線のくせにモジュラーではないことがわかります。

ライスの無いカレーライスですw

そもそもモジュラーじゃない、楕円曲線なんて存在しないよ!というわけで、ワイルズが証明します。

フライ曲線は半安定な楕円曲線であることが分かっていたので、半安定な楕円曲線はすべてモジュラーであると示しました。よって、フライ曲線はモジュラーでなくてはいけないのに、モジュラーではないので矛盾。というわけで、フライ曲線は存在せず、自然数解も存在せず、



を満たす、自然数解は無いので(n≧3ですもちろん、n=2はピタゴラスの定理ですし、n=1はただの足し算なのでw)、フェルマーの最終定理は証明終わり!

という話でした。

今回の寺子屋では、「モジュラーとは何?」という点をゴリゴリと数式も導入して学びました。
モジュラーというのは、保型形式の一つで、保型形式というのは自分から自分への変換のようなものです。単位元みたいな感じです。ちなみにポアンカレも保型形式を研究しています。


というフェルマーの最終定理の話しはさておき、ポアンカレ予想です(もう解かれたので、ポアンカレ定理と言うべきでしょうが)。


少し時間を巻き戻します。ポアンカレはトポロジーに関する5編の論文の最後の論文に最後にこう書き残しています。

(引用開始)
 論じなければならない問題が一つ残る。
 Vの基本群が恒等変換に帰着し、しかもVが単連結でないことがあり得るだろうか?
(引用終了)
(ポアンカレ トポロジーp.258)

ここでVは多様体を表わしてます。多様体の基本群が恒等変換に帰着されるというのは、単位元に還元されるということです。すなわち、多様体が自明な基本群ということです。

現在は多様体が自明な基本群であることと、単連結ということは同じ意味に使われていますが、ポアンカレはその意味で使っていません。
いや、その意味で使っていたら単なるトートロジーです。

スイカだが、しかもスイカでないということはあり得るだろうか?



という質問になってしまいますw

この点について、「ポアンカレ予想」(ジョージ・G・スピロー著)ではこう書いてあります。

(引用開始)
ポアンカレによる原文は「Est-il possible que le groupe fondamental de V se reduise a la substitution identique, et pourtant V ne soit pas simplement connexe?」(Vは「多様体」の意味)で、文字通りに訳すと「Vの基本群が単位元に還元され[つまりその群は自明]、にもかかわらずVが単連結ではないということがありうるだろうか」となる。この言い回しは誤解を招きかねない。「自明な基本群」と「単連結」は今日同じ意味で使われているからだ。このため、このままでは現代の読者にかなり怪しく聞こえる。ジョン・ミルナーは、ポアンカレ予想にかんする現状をまとめた2003年の論文の脚注で、次のように明快に説明している。「ポアンカレによる用語の使い方は、”単連結”を『自明な基本群を持つ空間』という意味で使う現代の読者を惑わしかねない。ここでの”単連結”とは、『考えうる最もシンプルなモデルである3次元球面と同相』という意味である」
(引用終了)(ジョージ・G・スピロー著 ポアンカレ予想 p.431)


というわけで、安心してポアンカレ予想に取り組めます。

ポアンカレが予想したのは、3次元多様体です。

ですが、一般化が好きな数学者たちはすぐに一般化したがります。

ヒルベルト空間をやったときに紹介したのがこんなジョークでした。


ある数学者とその親友である技術者は13次元空間の幾何学に関する公開講義に参加した。講義の後で「13次元はどうだったかね」と数学者が訊ねると、技術者は「ああなんだか眩暈がしてきちゃったよ」と告白し、「君は13次元空間をどうやって理解するんだい」と聞き返した。数学者は「ああ、それは簡単。まず n-次元空間で一般論を作って、n に 13 を代入すればいいんだよ」と答えた。


すべての次元でポアンカレ予想は成立するのかということです。

これもまた面白いことに、7次元以上が証明され、5次元、6次元が示され、そして4次元のポアンカレ予想が証明されました。
1次元のポアンカレ予想は単純で、2次元もさほどの難しさはありません。

ですので、結局残ったのはポアンカレが提示した3次元におけるポアンカレ予想(という言い方もおかしいですが)でした。オリジナルからスタートして数学らしく一般化を経て、オリジナルに戻ってきた感じです。

3次元で問題提起され、さまざまな次元を旅してきて、ラスボスは3次元だったというオチは面白すぎます。

ただトポロジーの場合は次元が高いほうが、余っている空間で動けます。低次元になればなるほど辛くなるのです。余裕がないので。


で、トポロジーの歴史を遡るのであれば、オイラーまで遡って、ケーニヒスベルクの7つの橋からスタートするべきでしょうが、時間も余白もないので、まずペレルマンに切り込みます。

ちなみに、ケーニヒスベルクの7つの橋とは、端的に言えば一筆書き問題です。同じ橋を二度と渡らずに、すべての橋を渡れるかということです。



このプレーゲル川に架かっている7つの橋を2度通らずに、全て渡って、元の所に帰ってくることができるか。ただし、どこから出発してもよい

で、ご承知のようにオイラーは単純化します。いまで言うグラフにします(グラフ理論)。点と線に還元します。以下Wikipedia参照。





そして、オイラー路とよばれる一般的解を示します。

・ある連結グラフが一筆書き可能な場合の必要十分条件は、以下の条件のいずれか一方が成り立つことである(オイラー路)。
・すべての頂点の次数(頂点につながっている辺の数)が偶数 →運筆が起点に戻る場合(閉路)
次数が奇数である頂点の数が2で、残りの頂点の次数は全て偶数 →運筆が起点に戻らない場合(閉路でない路)


これはまさに鮮やかな一般化の方法です。

ただ、このイメージでトポロジーを考えると、迷宮入りです。
オイラーは完全に忘れてください(じゃあ、紹介するなって気もしますが、まあ...)。

現在のケーニヒスベルクの橋はこちら(グーグル万歳です)。

オイラー路は確かにトポロジーの萌芽ですが、ここからスタートすると2時間半はおろか、2年半でも終わりそうにないので(笑)、今回はサーストン、ハミルトン、ペレルマンに絞り、そして3次元多様体に絞り、それもペレルマンの手法にフォーカスしたいと思っています。




【参考文献】
この11章、12章を扱います。
ポアンカレ予想―世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者 (ハヤカワ文庫 NF 373 〈数.../早川書房

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具体的な数学に関してはこれで十分かと思います。
臨時別冊・数理科学2007年7月 3次元トポロジーの新展開 リッチフローとポアンカレ予想/サイエンス社; 不定版

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