Quantcast
Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3544

「あなたの成長を妨げている信念は何ですか?」という質問のおかしさ?

$
0
0

かつて無意識が発見される前であれば、もしかしたら言語で世界も自分もすべて記述できるとうかつにも考えた人がいたのかもしれません(言語はあまりに不自由な道具です。共有することが前提であるということは、リアリティを捨象するということです)。

しかしフロイトとユングがぼんやりと非科学的なアプローチで(臨床的に、文学的に)定義した無意識(の発見)によって、意識というのははかないもので、我々が見ている意識というのは氷山の一角でしかないことは共通認識になりました。


*かっこよすぎなフロイト様

もちろん意識や無意識という区分は早々に否定されますし、いまは無機・有機と同じく、意識されていないところが無意識というような、トートロジーな定義がぼんやりと存在するだけです。なぜ無意味な用語がまだ幅を利かせているのでしょう。

シンプルな話です。「日が昇る」という用語と同じで、(天動説を信じない限り)科学的にはおかしくても、日常的には便利な用語というのはあります。「意識」や「無意識」も同様です。「抑圧」なども同様でしょう。

脳科学で言えば、大きなパラダイムシフトの1つは「Free will」が無いというものです。リベットによって、我々が想定するような自由意志というのは存在しないことが入念にデザインされた実験によって示されました。無意識が準備し、意識が意思決定をして、動作が起こります。


価値観や信念というのはいわば無意識に深く沈むアルゴリズムであり、言語に記述できないと考えるほうが妥当です。

これはノーベル経済学賞を受賞したカーネマンのSystem1、system2という議論だけで十分でしょう。


*もう御年80歳。

いくらSystem2で理性的に論理的に理解しても、直観などに相当するSystem1は切り替わりません。2は素早く学習しますが、1はゆっくりとしか変わりません。というか、むしろ変化しないのではないかと思うくらいにゆるやかです。


「あなたの成長を妨げている信念は何ですか?」という質問は二重三重に誤っているように感じます。


第一に、言語化できる信念などは、すでに「成長を妨げている信念」ではないということです。なぜなら認識できたら、自我の関数はすみやかに変わるので、妨げることができないのです。それでも妨げていると主張するのであれば、それは単なる都合の良い言い訳です。社会心理学で言えば、セルフ・ハンディキャッピングです(セルフ・ヒーリングではありませんw)。コーチングの世界で言えばクリエイティブアボイダンスが近い概念と言えます。単に言い訳です。やらないための言い訳でしかなく、それを「信念」などと言うから、話が面倒になるのです。その信念やらがどかされたとしても、また次の信念が出てきます。雨後の筍のように。


第二に、その信念をどかせば、すなわち阻害要因さえなければ、人は成長できるというお花畑のような楽観があります。素晴らしい啓蒙思想ですが、幸いにも老年にさしかかるとそのような楽観こそが諸悪の根源なのではないかと思えてきます(諸悪の根源は言い過ぎですが)。
マイナスをいくら修正しても0にしかならず、プラスにはならないのです。欠点を修正すれば、加点されるのは、学校のお勉強だけです。欠点をどれだけぶら下げていても、ささやかなプラス点を増幅させるべきです。欠点を修正した0点くんよりは、どれだけ減点されても、自分のプラスを増幅させたほうが魅力的ですし、加点されます。
阻害要因を消していったら、それが信念であれ、お金や技術やリテラシーや時間であったとしても、決して成功はしません。なぜかと言えば、周りを見回せば十分にその実例に事欠かないでしょう。圧倒的に豊かな時代にいて、知識も安価に手に入り、十分な資源もあるのに(数十年前と比較しても、数十km離れた場所と比較してもそれは明白です)、不満そうに不幸をかこつ、頭の不自由な人ばかりしか我々の目にはいらないのではないでしょうか?


第三に、質問者の価値観なり、拠って立つパラダイムが気になります。
質問をすれば、阻害要因となる信念があぶりだせるという妄信。そして阻害要因を無くせば、自動的に成功するという過信。そして心理や意識に対するあまりに無邪気な知識です。
心理学も認知科学も脳科学も次々と更新されています。これまでの我々の世界観がどれほど貧相であったかを知ることができます。そして新しい知見に基づくアプローチは、やはり効果の出る可能性が飛躍的に高まります。


だからと言って、言語を否定せよ、すべては神秘体験が教えてくれるなどと、また一方の極に触れるのもナンセンスです。言葉を道具として用いながら、相手の無意識の価値観や硬い信念をゆらがせつつ、自我なり場の関数を変えていくイメージです。熟練の職人が、機械を修理するときにいろいろな場所を次々と叩くように。


とは言え、そのような古く誤った効果のほとんど無い指導をされる指導者をいくら批判しても、建設的なことはありません。

阻害要因を取り除いても、成長はしませんw

ただ、興味深いサンプルとして眺めるだけにとどめます。



蛇足ながら、じゃあ、最新の知見に基づいた指導はどうなのかと言えば、それはもちろん素晴らしいのですが、生徒を選びます。小学生に大学の数学を教えるわけにはいきません。まずは高校までは卒業したいものです。我々はキンダーガーデンから、ゆっくりでも丁寧に階段を上りましょう(^^)


【書籍紹介】
記事の中で紹介した内容に関する書籍です。

ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?/早川書房

¥2,268
Amazon.co.jp

ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?/早川書房

¥2,268
Amazon.co.jp

ダニエル・カーネマン心理と経済を語る/楽工社

¥2,052
Amazon.co.jp

マインド・タイム 脳と意識の時間/岩波書店

¥3,024
Amazon.co.jp


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3544

Trending Articles