体質改善の鍵となるのは、3つあるように思います。
1つが糖中毒、そして栄養失調、最後が筋肉不足です。
3つはからみ合っていると思いますが、この3つの視点(鍵)でたえず分析することで、自分の状態の理解が進むのではないかと考えます。
1つ目が糖中毒です。糖中毒とは糖分に対する中毒というよりは、最終的に吸収されるときに糖となる炭水化物全般に対する中毒です。炭水化物中毒と言い換えても良いと思います。糖というのは重要な身体のエネルギー源ですが、糖の形ではほとんど保存できず、中性脂肪などに切り替えます。血糖としては、身体に4g程度しか保持できません。
2つ目が栄養失調です。これは以前より言われていることでもあり、目新しい議論ではもちろんありません。たとえば、肥満している方が栄養失調なのはおそらく事実でしょうし、逆にやせている方でも栄養失調の方も多いのではないかと推察します。栄養とは必須アミノ酸と必須脂肪酸のことです。ざっくりとした議論になりますが、他は体内で合成可能なので、必須ではありません(それでも合成が難しかったり、大量に必要で、外からの摂取が望ましいものもあります)。
3つ目は筋肉不足です。運動不足とは言わず、あえて筋肉不足としたほうが問題点をよりクリアにできるように思います。運動不足というと少し抽象的すぎる概念になるような気がしています。これは基本的な生活をするに十分な筋肉が不足しているということです。
この3つの視点をもって、自身の状態を省みることで、体質改善はやりやすくなるのではないかと思います。
ちなみに、身体という化学工場に対するアプローチとして、もっとも避けるべきものが非論理的なアプローチです。端的に言えば、我慢や意思の力に依存したアプローチは避けるべきです。「甘いモノを我慢する」と反動が来ます。「炭水化物を我慢すると」、反動が来ます。カロリー制限をすれば、反動が来ます。
ホメオスタシスに勝つことは不可能なので、身体のニーズに抵抗しないようにしながら、上手に関数を書き換えることです。身体の代謝の関数を書き換えるイメージです。勝たずして勝つには、書き換えてしまえば良いということです。上手にだますことが重要です。
身体の代謝の関数を書き換えるには最低限の生化学の知識は必要かと思います。
と偉そうに言っていますが、僕自身は自分がこれまで生化学を無視しすぎたと反省しています。完全に無視していたわけではないのですが、いわゆるベジタリアンやビーガンを信奉するあまりに、そして栄養学をバカにしすぎて(いまも少しだけしていますが)、生化学を無視しすぎたと考えています。もっとまだ知られていない消化・吸収・代謝のメカニズムがあるのではないかと夢想していました(実際に近年ようやく分かってきたことは非常に多くあります)。かなりバイアスが入りすぎ、かなりスコトーマが多かったように反省しています。
まあ、それはともかく、それゆえ糖質を制限するといういわばネガティブな方法よりも、もしかしたら十分な運動負荷をかけながら、筋肉量を増やし(体幹を鍛え)、タンパク質摂取量を増やし、結果として糖質を制限していくのが合理的なのかもしれません。
タンパク質の摂取量を増やして、栄養失調を改善すると、炭水化物に対する欲求が減っていきます。炭水化物を我々が多く摂取するのは、糖中毒(炭水化物中毒)という面と、栄養失調(タンパク質不足)による身体のニーズと両方があると考えます。すなわち、栄養失調を改善すると、栄養が欲しいという身体のニーズは減るので、お腹は空かなくなります。ただ糖中毒の場合は、再現なく糖を求めてしまうので、いったん糖断食に入ったほうがいいとは思います。糖断食に入った場合は深刻な禁断症状は(中毒である以上)覚悟したほうが良いと思います。低血糖症状や身体のだるさ、重さなどは僕は禁断症状であろうと認識しています。その際は激しい運動をすることで、血糖値を上げながら、糖を身体から抜いていくことです(これは糖が物理的に残っているというよりは、アルコールを抜くのと同じで情報的なものと考えたほうが良いかもしれません)。
糖質制限をすると健康を阻害するという意見は多く見られます。
これは僕も疫学的にはそうであろうと予測します。それは糖質制限自体の問題というよりは、糖質制限を正確に実行することが非常に困難だからです。
というのは、たとえば糖質制限はしばしばカロリー制限に横滑りするからです。
我々は肉や卵、牛乳を食べない日があっても(僕は十数年は少なくとも卵も牛乳も摂りませんでした)、穀物を食べない日はないでしょう。穀物や野菜、果実などを欠かすことはないと思います。しかし、これは栄養学の視点で見ればすべて糖です(いや、糖以外もありますが、ほとんどは糖です)。野菜や果物が無くても、小麦やコメといった穀物は必須でしょう。
*光合成のモデルをWikipediaで見ると、光合成の代謝物は酸素とSugarです。
これらを一切食べてはいけないと言われて、それを実践すると、食べるものが無いのではないかという恐怖に囚われます。実際に炭水化物を食卓から抜くと、肉や魚介、卵、牛乳などしか残りません(人間の雑食性は遺伝子的なものというより、食べるものが無かったという歴史的なものです)。
そのため脳は遺伝子に従って、断食モードに入ります。飢餓モードです。糖断食を断食にスライドさせるということです。
動かずにじっとしていて、収穫の時期を待つか、獲物が歩いてやってくるのを待つ時期です。
そのとき、脂肪を溜め込んで、筋肉を燃やします。これは身体にとっては最適解です(我々にとっては最悪の解です)。
なぜ筋肉を燃やすのでしょう。なぜなら糖などのエネルギーを大食らいする筋肉を燃やして燃料にできるからです。筋肉を少なくすれば、飢餓モードでも少しは長く生きることができます。ただもちろん動きは緩慢になり、思考もゆっくりとなります。時間が過ぎ去るのを待つのです。
糖質制限をやる人の多くが、糖質制限からカロリー制限に横滑りし、カロリー制限によって筋肉を激しく落としているように思います。筋肉が意外と簡単に落ちるのは、入院している患者さんを見れば明らかです。入院体験があれば身を持って知るでしょうし、寝たきりになっても同様です。驚くほど筋肉は落ちます。筋肉は燃やされるのです。
糖質制限で痩せたと喜んでいる人には冷や水をかけたほうがいいのです。それは単にひどく筋肉が落ちているだけであり、糖質制限ならぬカロリー制限をしているだけのことが多いからです。糖尿病学会が批判しているポイントもそこにあります(多分)。
ですから、糖質制限を含めた体質改善をするならば、きっちりと正しく体幹を鍛える筋トレを継続して、筋肉量をかなり増やしながら、同時にきちんとタンパク質を補い続ける必要があると考えます。
炭水化物を制限すれば良いというものではないのです。炭水化物はさておきともかくどうタンパク質を摂るか、どう筋トレをするか、どう筋肉量を適正なレベルまで改善させるかに腐心すべきでしょう。ただ適正なレベルというのは厄介で、それゆえに「まといのば」ではYogaやバレエを薦めます。それも正しいYoga、正しいバレエを。どちらもまがいものが多く、特にYogaは栄養失調の楽園です(バレエも同様に)。
普段の現代人の生活は筋肉がなくても、砂糖というドラッグだけしゃぶっていれば生きていけるのです。登山やスポーツですら同様です(だから、砂糖水や砂糖菓子を飲み喰いしながらでも、アスリートはパフォーマンスをあげています。しかし砂糖は身体のエネルギー源になっても、身体を構成はしません。いや脂肪は構成しますが、筋肉にはなりません)。
栄養失調と筋肉不足はほぼ同じですが、しかしなぜ栄養失調にフォーカスするかと言えば、我々が「ついつい甘いモノに手が出る」のは栄養失調ゆえではないかと思うからです。逆に自身が栄養失調であることを正確に理解し、必須アミノ酸と必須脂肪酸をきちんと補給するようになると、変な食欲が消えると考えます。いわゆる締めのラーメンとか、就業時間中のチョコレートとか、ご褒美のアイスのようなものに対するニーズが雲散霧消します。同時にそれを摂取したあとの甘美な罪悪感からも解放されます(おそらく)。
我々の心の弱さと認識していた甘いモノへの渇望や、お菓子や食べ過ぎはすべて心の弱さではなく、生物として生命維持のための栄養補給を希求していただけなのかもしれないということです(ここでは中毒についてはあえて外して考えています)。ですので、栄養失調が改善されると、そのおかしな不適当な食欲も消えるということです。おかしな食欲は正当な生命維持装置の暴走であったということです。
ちなみに、糖中毒に関しては膨大な研究がありますし、ビーガンであろうが、マクロビオティックであろうが、ナチュラルハイジーンであろうが、砂糖はNGと言うでしょう。一般的な理解もそうでしょう(精製された糖がいけないのであれば、炭水化物も同罪です。腸から吸収されるときはほとんど同じなので)。砂糖が麻薬とほぼ同等というのはコンセンサスがあると考えます。
このカラクリはシンプルで、糖があるところには必ず栄養(タンパク質、脂質)があり、だからこそ糖の甘みに猛烈なドーパミンが出たのでしょう。ドーパミンは渇望は生みますが、満足感は与えません。満足感は摂取されて吸収したタンパク質と脂質がもたらしてくれたのだと考えます。
しかし精製された糖にせよ、デンプンが肥大した穀物にせよ、糖が多くて栄養が少ないがゆえに、渇望感は与えるが、満足感は得られないという中毒性を獲得したのではないかと考えます。
もちろん糖がエネルギー源であることは事実でしょうが、量が問題です。過ぎたるは及ばざるが如しです。体内に4g程度しかない物質を、体外からその数倍、数十倍のオーダーで取り込めば、平衡は破壊されます。あわてて調整するためにランゲルハンス島がインスリンを注ぎ込んで、血糖値を下げるべくがんばるしかありません。余った糖は身体を破壊します。
厄介者の過剰な糖はインスリンがついていると、中性脂肪が認識して引き取りますが、あまりに引き取る量が多いと中性脂肪は受け取り拒否をします。いわゆるインスリン抵抗性です。厄介者の糖は血管と中性脂肪の間で押しつけ合われたあげくAGEs(終末糖化産物)になって、身体の中のテロリストとなります。AGEsが老化(Aging)の引き金となります。
糖がこれほど悪い存在になったのは、運動不足というよりは基礎代謝が落ちたからでしょう(後述しますが運動不足や筋肉不足ももちろん問題です)。恒温動物は体温の維持にエネルギーを膨大に使います。しかし我々は自分の体温ではなく、環境の温度を維持することに成功し、そのことで自分の体温維持にエネルギーを注ぐ必要が少なくなりました。我々は体温の恒常性維持は空調か衣服で行えます。カロリーという概念が(かつては)「1グラムの水の温度を標準大気圧下で1℃上げるのに必要な熱量」と定義されていたことを思い出すと、体温を上げる必要がほとんどなくなった我々はカロリーというか糖が不要になってきたということです(かつてほど大量には)。もちろんその一方で深刻な運動不足があります。運動不足の最大の問題は筋肉量が不足することであり、人間は筋肉で生きている以上、筋肉が無くなることで多くの健康上の問題が併発します(これはこれでかなり深い問題ですが、たとえば骨盤臓器脱などは骨盤底筋群の筋力不足でしょうし、肩凝りや腰痛も同様と考えます)。内臓や血管も筋肉であることを考えれば、筋肉不足(タンパク質不足)は深刻な問題を引き起こすことは推定可能でしょう。
糖中毒、栄養失調、筋肉不足が微妙に絡み合って、深刻な問題を引き起こしているのが現状だと思います。
しばしば糖質制限は短期的には効果があるのはわかるが、長期的にはエビデンスが無いなどと言います。ただこれだけ糖による被害が生活習慣病なりメタボリックシンドロームという形でエビデンスとして出ているのにまだ糖摂取に関する悪いエビデンスは足りないのだろうかと感じます(ある種の精神疾患なりガンも糖由来によるものが多いのではないかというのは、極端な議論のようですがかなり妥当な気がします。ガンは糖しか食べれない解糖系の新生物であり、糖の中毒症状が精神の病として現れるということです)。
ただこれは深刻な神学論争を引き起こします。食は信仰なので、反発しか招きません。我々は余計なことは言わずに、ひっそりと十分な負荷のある運動による筋力の回復を続けながらこっそりと「しなやかマッチョ」を目指し、タンパク質(アミノ酸)という栄養の回復をして、同時に糖中毒からの離脱(禁断症状を超えて)を果たしましょう。おそらく、世界は一変します。
そして蛇足ながら、これは希望的観測なのかもしれませんが、僕自身の確信としてあるのは、医食同源の桃源郷です(笑)。
すなわち、糖中毒による味覚というセンサーの破壊から回復し、栄養失調による味覚の破壊から回復して、そして筋力が回復すれば、我々は「好きなものを好きなだけ食べる」ことが医食同源になる領域に移動できるのではないかということです。自分にいま必要なものを、味覚が合理的に選んで適切な量を食べるということです。
ご承知のとおり、脳を考えると、意識で行う情報処理などたかがしれています。意識と無意識という古いパラダイムをあえて持ち出せば、ほぼ無意識がすべてのことを行っています。その中には消化、吸収、代謝があります。だからこそ、彼ら(脳たち)に摂取するものも自由に決めさせれば良いと思います(もちろん現状では我々の多くが、中毒と栄養失調により、認識を強く歪められているので、自由に選べばむしろより悪くなるほうに転げ落ちます。だからこそ、まず体質改善が必要かと思います)。
静かに冷静に体質改善を粛々とすすめましょう!
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体質改善の3つの鍵(糖中毒、栄養失調、筋肉不足)
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