8月のまといのば講座の第5講座のレジュメにこんな風に書きました。
8.30年戦争の最中の1621年、ある錬金術師が異端審問によって自宅への幽閉を命じられる
8−1 錬金術師のヘルモントは2キロの柳の苗木を90kgの乾燥した土で育てるが、5年間水しか与えない。結果、柳の木の重さは75キロ増え、土は60gだけ減った。
8−2 窒素固定細菌としてのジアゾ栄養生物(diazotroph)
8−3 28kgのオーク木炭=0.5kgの灰+27.5kgの気体
これは僕らの先入観というか、常識を破壊してくれる偉大な実験です。
結論はシンプルです。
植物は土(というか肥料)を食べているわけではない、ということです。
植物は水と空気でできているのです(とヘルモントは考えましたが、実際は光と水と空気です)。
その証拠として、2kgの柳の苗木を90kgの乾燥した土で育てます。
5年間、水だけで、堆肥なども無しで育てて、柳の苗木は77kgの立派な木に育ちます。
土はと言えば、60gしか減っていません。
植物は75kg増えたのに、土は0.06kgしか減っていないのです。ほぼ誤差です。
これは非常に面白い実験です。
ここからの結論はシンプルで、柳の木は水と空気でできたということです。
それを示すためにも、逆向きの実験をしました。すなわち、オーク木炭を燃やします。
すると、0.5kgの灰しか残りません。残りの27.5kgは気体として拡散したことを示します。
僕らは化学がある世界に生きているので、炭素が二酸化炭素になって気体となることは容易に理解できます。
ここでのポイントは繰り返しますが、植物は土を食べているわけではない、ということです。
いや、これはもちろん語弊のある言い方ですが、パラダイム・シフトにはショックが必要です。
土は栄養分というよりはメディアなのです。媒体です。
植物は根っこからSugarの滲出液を出し、そして微生物から必要なミネラルなどの栄養素を得ています。物々交換です。そして植物にとって、ハーバーボッシュ法よりも大切なのは、窒素固定菌です(いや、それ以外の微生物も)。ハーバーボッシュ法などつい最近のことでしかありません。
我々は土の追肥することで、植物に栄養を渡しているつもりになっていましたが(間違っていないのですが)、実際は微生物というEcoSystemを介していることを理解しなくてはいけません。
ヘルモントについては、こちらの記事に詳しく書いています。
c.f.トポロジカルに考えて内側の内側が外側ならば、腸の内側は植物の根の外側か? 2017年04月05日
「身土不二」という仏教由来の言葉を拡大解釈すると創世記の「アダム」ということになります。アダムとは土という意味です。イブが生命(Live)に対して、アダムが土です。そしてこれは非常に重要な意味を隠し持っています。
ヘブライ語「אדם(アダム)」の名の由来は「אדמה(土)」
Adamという語は、ヘブライ語で「地面」を意味するadamah(アダーマー)という語の男性形である。この言葉は同時に「人間」(アーダーム)という意味も持つ
神の吹き込んだ息とは何か?
そしてアーユルベーダの言う「アグニの神様」とは誰(何)のことか?
アダムの末裔ということで、我々は土であり、そして土とそっくりの構造を腸内というトポロジカルな外側(体表面)に持つのです。皮膚常在菌と腸内細菌叢はどちらもトポロジカルには同じ平面上にあります。
この視点があると、我々を支配している細菌叢を支配することが可能になります。
土作りと同じであり、微生物とどう対話をするかが腸内という小宇宙のEcoSystemを改善していく
ポイントとなります。
「土作り」と言いましたが、これまでの農業科学が完全に間違っていたとするならば(扇状的な書き方をあえてしていますが)、従来の土作りとは隔絶した新しい方法(そしてそれは伝統的な方法)を採用する必要があると思います。
ちなみになぜ腸内が小宇宙かと言えば、カール・フォン・リンネの分類方法からスタートとした分類方法で考えると、想像を絶する宇宙だからです。
我々はたかだかホモ・サピエンスでしかありませんが、腸内の多様性は植物の全種類(の門の数)を凌駕する多様性なのです。
再びレジュメから引用します。
3.10%Humanと細菌叢
3−1 ヒト:動物界 脊索動物門 哺乳綱 サル目 ヒト科 ヒト族 ホモ・サピエンス
3−2 動物はほとんどはわずか9つの門に属し、植物ですら12の門の中に含まれる
3−3 細菌は今の段階で約50の門があることが分かっており、人間の腸の中には驚くべきことに12の門の微生物が生息しています(全植物と同じ、動物よりもはるかに多い門の数!):腸内細菌の多様性
すなわち、ヒトとは、動物界 脊索動物門 哺乳綱 サル目 ヒト科 ヒト族 ホモ・サピエンスとなります。これが我々の現在地です。
動物界には9つの門があります。その1つが脊索動物門です。
植物界には12もの門があります。
ただ細菌には、現段階で50の門があり、そのうち人間の腸内には12の門に渡る微生物が生息しています。この多様性を失うことが万病の元ではないかと(万病は言い過ぎ)「まといのば」では考えます。
この視点から見ると、多様性とは地産地消ということが、もっとくっきりと見えてくるかと思います。
我々の足元には(というか腸内には)恐るべきEcoSystemが機能しており、その機能不全から解消していきたいのです。
【書籍紹介】
どちらも懐かしい書籍ですよね!ヘルモントはこちらの「土と内臓」より!
c.f.今も残る陰陽師の行事としての節分(追儺)とマッキンダーから観る微生物の均衡関係 2017年04月08日
レジュメの表題の一つ「10%Human」はこの書籍の原題。
c.f.冬の日は老人の繰り言と似ている〜脳にすら命令を繰り出すあの臓器の秘密を暴露?!10%Human 2016年10月26日
c.f.♪いま何時、そうね、だいたいね〜(桑田佳祐)クンダリーニと第3の目としての松果体?! 2016年12月27日
A balanced globe of human beings. And happy, because balanced and thus free.
(全人類の生活が均衡に達したとき、はじめて幸福な世界が生まれる。均衡(バランス)こそ自由(フリーダム)の基礎である。)(マッキンダー:地政学の創始者)
微生物の世界も同様であり、我々はそれをEcoSystemと呼びます。
c.f.かつてアリストテレスは「奴隷とは何か?」という問いに、「ものを言う道具」と答えました(瀧本哲史) 2020年06月10日
(両方の書籍が紹介されています↑)