たしかフィールズ賞(数学のノーベル賞のようなもの)を取ったハーバード大学の教授の話だったかと思うのですが、、、
大学院生に課題となるような数学の問題を渡すと、
「これ、3年位、(自分が)考えたら解けますかね?」というようなことをよく聞かれるとおっしゃっていました。
大学までの数学は出題者が神様ではなく、誰か人間なのですでに答えがあります。
でも、きっと、大学院生に渡される問題は、未解決問題なので、答え(証明)があるかどうかも分かりません。
そのような世界線では、答えがあるというのも大きなヒント(オラクル)です。
で、3年位、自分が死にものぐるいで考えたら解けますか?というなんとなくの予想を教授に聞くのですが、そのときに教授が決まって答えるのは、
「君が3年で解けるなら、俺が今すぐここで解いている」、と。
どっひゃーという感じです(どういう感じ?)。
これが抽象度の階層性です。
広中平祐教授の逸話だったような気がしているのですが、うろ覚えです。
c.f.人が最初に問題にぶち当たったときには、単純な方法で簡単に解決できるように見える(ジョブズ) 2019年08月17日
c.f.独房の鍵はいつも君のポケットの中にあった。いつでもドアの鍵を開けて、自由になることができたのに 2021年05月12日
(引用開始)
「人が最初に問題にぶち当たったときには、単純な方法で簡単に解決できるように見える。それは、まだ問題の複雑さを理解していないからだ。でも解決策が単純すぎたら,それはうまくいかない。そうしていったん問題の細部に足を踏み入れると、そこではたくさんの問題が複雑に入り組んでいることがわかってくる。込み入った問題のそれぞれに、手の込んだ解決策を考え出さなきゃならなくなるわけだ。たいていの人はこの段階で止まってしまう。確かにこういう方法でもその場しのぎはできるからね。でも、本当に優秀な人材はそこに留まらずに、問題の背後にある本質を見つけ出す。そして、美しくて簡潔明瞭で、しかも見事に機能する解決策を思いつくんだよ」(引用終了)
(僕らの時代は先史時代の最後の時期なのだと思います。インターネットなどほとんど存在せず、書籍や雑誌が最高の情報媒体でした。記録装置は紙でした。デジタル化されていない紙は散逸しています)
僕自身も自分の師匠からの言葉というのは、自分のIQレベルで即座に理解できるなどとは夢にも思っていません。もちろん理解できることはできますが、それでも海辺で寝転んでいたら、背中に砂が残るように、ざらっとした感触で今の自分にはまだはっきりと分からないことがいくつもいくつも残ります。
だからこそ、師匠がおっしゃったことをその臨場感空間ごと記憶して、脳内に格納して幾度も幾度も幾度も再生します。擦り切れて分からなくなるまで再生します(という比喩表現もレコードやテープというアナログ再生装置の劣化について知らない世代には意味不明でしょう)。
我々の世代間格差は激しいものがあります。
以前、宇多田ヒカルさんという世紀の歌姫の見事な歌詞が新世代には意味不明という例で世代間格差を示しました(←分かりにくい文章)。
c.f.冬の日は老人の繰り言と似ている〜脳にすら命令を繰り出すあの臓器の秘密を暴露?!10%Human 2016年10月26日
ちょっと長いですが、引用します。
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宇多田ヒカルさんと言えば、ファースト・シングルの『Automatic』は衝撃的でした。15歳のときの作品です。
天井が低い?と言われたPVは何度見たか分かりません。
まだ当時はYoutubeなるものも無く、ビデオテープをデッキに差し込んで繰り返し再生していました。
最近のセミナーのネタで言えば、この男女の機微を歌った衝撃的な歌詞が、テクノロジーの進歩によって、若い人にとって意味が分からなくなっているということです。
「7回目のベル※1で受話器※2を取った君 名前を言わなくても声ですぐ分かってくれる※3」
— くろみや (@kuromiya9638) June 10, 2016
※1 昔の着信音や呼び出し音のこと。この場合は呼び出し音。
※2 昔の電話についていた、通話時に本体から取り外し耳に当てる部分。
※3 昔の電話は着信時に相手は表示されなかった。
これは面白いです。
テクノロジーの進化が激しくて、コンテキストが根こそぎ変わる時代に我々は生きています。
黒電話もポケベルも電報ももう今は昔です。
そこから考えると、絶対に古びない比喩を使っているソクラテスとプラトンは見事です(プラトンの国家はソクラテスが語っているという形をとっています)。
地下にある洞窟状の住いのなかにいる人間たちを思い描いてもらおう。光明のあるほうへ向かって、長い奥行きをもった入口が、洞窟の幅いっぱいに開いている。人間たちはこの住いのなかで、子供のときからずっと手足も首も縛られたままでいるので、そこから動くこともできないし、また前のほうばかり見ていることになって、縛めのために、頭をうしろへめぐらすことはできないのだ。彼らの上方はるかのところに、火が燃えていて、その光が彼らのうしろから照らしている。(プラトン「国家」)
この比喩を語るときに、間違えて「映画」とか「トーキー」とか「幻灯機」とかを使ってしまったら、すぐに古びて使えなくなってしまうのです。
98年当時にこれが2016年に理解できない子どもたちが出て来るとはまさか思いませんでした。2016年の最新のものは、2026年にはあまりに古くて理解できないものになっているのでしょう。
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絶対に古びないというのは、おそらくは間違いでしょう。僕らがサーバーに移動したら、説明無しでは理解できないかもしれません。その意味で僕もマルクスと同じ間違いを犯しています。
c.f.古代ギリシアの芸術がなぜ「永遠の魅力」を保持しているのだろうかとマルクスは悩んだが、、しかし 2017年08月04日
(引用開始)かつてカール・マルクスが悩んだ問題は、古代ギリシアの芸術が、それを生んだ社会が過去のものになってすでに久しいのに、なぜ「永遠の魅力」を保持しているかということだった。しかし私たちがいまこだわりたいのは、この世界の歴史がまだ終わってもいないのに、それが「永遠の魅力」を持つとどうして言い切れるかということだ。(イーグルトン『文学とは何か』)(引用終了)
とすると、カーネマンのお友達であるタレブの謙虚さが正しいのです。
我々は自分の抽象度から言えることのみを断定すべきです。
「私たちの世界は、当時の人々が想像した(想像しようとした)世界よりも、当時の世界にずっと近い」(ナシーム・ニコラス・タレブ『反脆弱性』下巻 No.1546/5069)
c.f.避暑は月世界?〜私たちの世界は、過去の人々が想像した世界よりも、当時の世界にずっと近い(タレブ) 2017年07月11日
(引用開始)
今夜、私はレストランで友人と会う予定だ(「食堂」は少なくとも25世紀前からある)。私はオーストリアのアルプス山脈で発見されたミイラが5300年前に履いていたのとそんなに変わらない靴を履いて、レストランまで歩いていく。レストランに着いたら、メソポタミアの技術である銀食器を使う。指がやけどすることなく、子羊の脚を切ったりできるのだから、十分に"キラー・アプリケーション”の名にふさわしい。それからワインを飲む。6000年以上も前から愛されているお酒だ。ワインはグラスに注がれるが、私の祖国・レバノンの人々は、フェニキアの祖先たちがガラスを発明したと主張している。納得できないって? それなら、少なくとも2900年前から、この地域でガラス製品がアクセサリーとして売られていたのは事実だ。メインコースを終えると、もっと原始的な技術が登場する。アルチザン・チーズだ。私たちは、何世紀も前から製法の変わっていないチーズに、ふつうよりも高いお金を払うのだ。
(略)
食事はどても古い技術(火)を使って料理される。調理には、古代ローマ時代から変わっていない台所用品や器具が使われる(使われている金属の質は違うだろうが)。私は(少なくとも)3000年前から使われている「椅子」という名の道具の上に座る(しかも、古代エジプトの豪華な椅子と比べれば味気ない)。
(下巻 No.1557/5069)
で、話を戻すと、「師匠が伝えたことを秒で理解できるような知能を自分は持っていないのではないか」というマインドセットは大事だということです。
それ無しでは、いわゆる「わかったつもり」という魔境落ち確定になってしまうのです。
だからこそ、自分の理解を示しながら(キャッチボールしながら)、その言葉をしっかりとEchoさせることです。それも繰り返し繰り返し。
そのうちにあまりに響かせると、地面が割れ、天が落ちてきて、新しい世界が見えてくるのです。
そのレベルのことを直接メッセージとして送っています(そしてブログに書いています)。
(こうやって断定形で話すと、それは違うと言語で反論してくる人がいるので、だから言語抽象度というのは面倒だなと思います。貨幣と似ていて、とても便利な道具ながら、抽象化の存在しないべったりした存在なのです。貨幣・言語・暴力はその意味で似ています)
本題に入る前に、余白が消失しそうなので、このへんで!
あ、One more thing!(もうひとつだけ!)
(というネタもアップル創業者のSteve Jobsが亡くなって干支一周分過ぎたのですから、分かる人が急速に少なくなっていきそう)
生命現象度ということについて、どうやって客観的に測れるのですか?というような質問を頂きました。
もちろんそれは似た概念である抽象度の階層性や計算量の複雑性と絡めて推定することは可能です。
宇宙創生も進化も生命現象度が上がる歴史であることは間違いありません。
宇宙創生は元素周期表を左から右へ、上から下へ行く旅です。
だからこそカーボン(C)でできている我々は一周期下のSi(シリコン)へ移動することが推定できるのです。
星のかけらが見たかったら、宇宙旅行などしなくても、自分の手をかざして見ればよい。人間の肌や肉体や骨を構成している原子は、天空の彼方の宇宙の炉でつくられたものだからだ。(p.8マーカス・チャウン『僕らは星のかけら 原子をつくった魔法の炉を探して』)
そして著者のマーカス・チャウンはホイットマンのこんな詩を紹介しています。
私は、草の葉の一枚一枚が、星の労作にほかならないと信じている。(ウォルト・ホイットマン)
生命現象度について言えば、自分という現象の生命現象度が上がったことは明白に分かります。まず自分に分かり、そして周りが変化します。その周りの変化とは宇宙が変わることですが、それがなかなか認められない精神にお勧めするのは、IQが乱高下した可哀想な少年の物語です。
このように観測できることを知っていれば、自分にこれから起きる悲劇と喜劇を予知できます。そしてその対処法も上手になります(多分)。
c.f.以前、彼らは私を嘲笑し、私の無知や愚鈍を軽蔑した。今は私に知能や知性が備わったゆえに私を憎む 2022年03月15日
*タイトルの意味を理解するには最後まで読まないといけないのですが、、、、(それも美しい)これこそがエブエブのテーマである「Be Kind」だと思います。
少なくとも自分の抽象度よりも一つ低い抽象度(生命現象度と言い換えても良いのですが)の範囲では、生命現象度は明白に測定可能なのです。そしてそれはある程度の集団では共有可能です。
ただし、大衆はいつも真逆を指し示します。
かつて寺子屋ではパスカルの三角形から組み合わせ(コンビネーション)の係数の話をし、そして自然界を統べる法則としてのベルカーブ(正規分布)を考えました。
我々はベルカーブとブラック・スワンに支配されています。
だからこそ、共有不可能な知識というものがあります。
唐突に終わりますが、参考になりそうな記事をいくつか紹介しておきます。
c.f.いいかね、おれたちの頼りにすべきは自然の理法だ、決して魔法ではない(シェイクスピア『オセロー』) 2020年11月25日
c.f.君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると決まって同じ反応をする。わけがわからないよ 2021年05月09日
そうか、