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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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機械になりたい(アンディー・ウォーホール)僕は人間ではない。一個の純粋な機械だ(村上春樹)

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「真に創造的であるためには、その生活はきわめて機械的であるべきだ」とは誰かの言葉ではなく、いま思いつきで書きました。でも、まさにクリエイティブであるためには、日常生活は規則的であり、凡庸である必要があります。

意志力のリソースというのは希少であり、「1日500円あげるから、これだけでなんとかがんばって」と言われているような感じです。その500円の中でがんばればいいのですが、僕らは未来から盛大に前借りしてしまい、そして盛大にドブに捨ててしまったりします(不用意に徹夜したりしないで「淡々と」がんばることが重要です)。

でも真に創造的な人はその500円をやりくりして、着実な投資に回し、そこからうっすらとリターンを得ながら、きっちり一歩一歩前進していきます。

そのときに貝ではなく「自分は機械だ」と見做すことが重要になってきます。

一個の純粋な機械です。


脳が一種のカーボンベースのコンピューターであり、抽象度を自由に行き来(いきき)できるということで言えば、脳はナチュラルなStrong AIです(もちろん厳密には脳のようなコンピューターのことをStrongAIと言いますが)。
そしてコンピューターとはチューリングに言わせれば、我々が想像するような電気的なものではなく、その本質は機械的です。コンピューターが電気的だと考えるのは一種の迷信だとチューリングは言います。

おなじみの引用ですが、再度確認しておきます。

(引用開始)バベッジの解析機関が完全に機械的な構成だったという事実は、逆に一種の迷信から目を醒まさせてくれるかもしれない。現代のデジタル計算機は電気的であり、人間の神経系統も電気的であるという類似性が、しばしば重要視される。しかし、バベッジの機械は電気的ではなく、すべてのデジタル計算機が同等であることを考えれば、電気的であることが本質的に重要ではないことがわかるだろう。(略)したがって、電気を使用するという類似性は、一種の迷信と言える。むしろ、何らかの本質的な類似性を見出すためには、数学的な機能に目を向ける必要があるだろう。
(引用終了)(計算機械と知性 アラン・チューリング 高橋昌一郎訳 現代思想2012 vol.40-14 p.14)

コンピューターとは機械であり、機械とは完全に数学的です。

コンピューター = 機械 = 数学

という構造で僕がいつも思い浮かべるのは歯車です。
歯車は歯の数と回転数の積が必ず一致します。



たとえば右の歯車の歯の数が100で回転数が1分に2回だとします。一方でもう一つの歯の数が50だったとしたら、回転数は1分間に4回となります。

100×2=50×4

です。

(たとえば、梃子(てこ)もまた同じです。重さとアームの長さの積が左右で一致します。その意味では数学というのは抽象的である以上に、具体的であり具象的なのです)

これは目の前にあるマシン(というか歯車)でも確認できる事象であり、かつ数学としても記述できる事象です。そしてこの感覚こそがコンピューターの感覚です。


そこで僕らが思い浮かべるのはアルキメデスです。


*「私の円を壊さないでくれ!Nōlī turbāre circulōs meōs!」
ローマ兵に連行されるという事態に至ってもなお、数学宇宙のほうが彼にとっては重要でした。ポケモンGoをやっていて事故るのと同じく、かれも抽象世界の重要性が高く、このあと殺されます。


かれは数学の証明をどうやって思いつくかと言えば、頭の中にある機械に先に計算させたと言います。

彼はそれを「機械学」と呼んだそうです。機械学で明らかにした真理に対して、あとで幾何学的に証明を与えます。

(引用開始)数学におけるある種の問題を機械学によって、探求するというものであります。そしてこの方法は、定理の証明そのものとっても同様に有効であると信じております。この方法による探求は証明を与えるわけではありませんので、機械学的に最初に明らかにされたいくつかのことは、あとで幾何学的に証明しております。と申しますのは、追求されている問題について、この方法によっていくつかの知識をあらかじめ得ておきますと、何らの知識になしに追求するよりも、その証明を求めるのがはるかに容易になるからなのであります(引用終了)(「アルキメデス方法」pp.83-84『神は数学者か』より孫引き)

この「機械学」の視点があると、証明無しに結論を手にできたというニュートンの手触りも少し見えてきます。

我々の「一種の迷信」のひとつに証明無しでは何も知り得ないというものがあります。

もちろん証明なり実証なり、理論的整合性が無いものを「知識」としてはいけないという大前提はあるとして、しかし知識に至る道は証明だけではなく、アルキメデスの言う幾何学的なアプローチもあるということです。

(引用開始)
彼が天体運動のもっとも基本的な発見の一つをハレーに知らせたときの話がある。「なるほど、」とハレーは答えた、「しかしどうしてそれがわかりますか。あなたはそれを証明したのですか。」ニュートンはびっくりしたーー「なに、そんなことはもう何年も前からわかっているのです」と彼は答えた、「二三日待って下されば、きっとその証明を見つけますよ。」ーーやがて 彼はいったとおりにしたのであった。(引用終了) (p.318 ケインズ 「人物評伝」岩波書店)

ここには我々と共通するハーレーの「一種の迷信」があります。
証明を通じてしか、「分かる」ことができないという迷信です。

それに対して、ニュートンは証明など無くても「わかっている」と答え、そして必要ならば「証明を(これから)見つけ」ると答えています。

痛快です。


これはファインマンも通じるように思います。

ファインマンはカルテックの学部生に教えるという貴重な数年間の講義の冒頭で、彼らに正直にこう言います。
僕自身には物理的には何がどうなっているかが直観的にわかってしまっているので、かえって人にどう伝えたらよいのかわからない。

だから、、、「習うより慣れろ」とファインマンは言います。



それに「バビロニア方式」という魅力的なネーミングをつけて、習うより慣れろと学生を励まします。
なぜ、習うより慣れろなのかと言えば、習うことができないからです。
慣れるしか我々はできないのです。

20kgのバーベルしか持ち上げられない人に、すぐに100kgのバーベルの持ち上げる方法を教えることはできません。その人が地道に重さに身体を慣らしていくしかありません。それもじっくりとじっくりとです。

このときにきわめて機械的になることが大事です。
ゴールに向かうための環境のデザインが終わったら、ひたすら機械的にやり続けることです。

ちなみに、鍛錬が習慣になっている人にとっては、この「ひたすら機械的にやり続ける」というのは当たり前すぎる感覚でしょう。
たとえば、子供の頃から音楽を学んでいる人、スポーツをがっつりやっている人、踊りを続けている人、きちんとした筋トレをしている人などは、この感覚は当たり前に持っています。ともかく単調なトレーニングをひたすら機械的に繰り返すしかないことが分かっていて、それが大前提でしかないことは分かっています。
当然ながら一発逆転もないし、そして才能の前にはひれ伏すしかないという感覚もおそらくは早いうちに強い痛みと共に実感しています。それでもなお好きだからそれを続けるのです。
その感覚を共有しない限りは、ゴールとかWant toとかhave to とかCreativityやCreative Avoidanceというのは明確に見えてこないと思います。

村上春樹さんはレイモンド・チャンドラーのこんな言葉を紹介しています。
たとえ何も書くことがなかったとしても、私は一日に何時間かは必ず机の前に座って、一人で意識を集中することにしている

サマセット・モームも毎朝ルーティンのようにタイプライターの前に座り、手を動かしたと言われます。何も書くことがないときは、自分の名前をひたすらタイプして、脳や手があったまるのを待っていました。

村上春樹さんも朝の五時に起きて、夜の十時前には寝るという生活を20年続け、早朝の数時間に執筆をするというルーティンを欠かしません。

自我はセルフ・ハンディキャッピングするか、クリエイティブアボイダンスしかしないので、自我をなくし、自分は機械だと思うことです。
実際に脳はコンピューターであり、機械です。肉体も機械です。

辛い時は特に「僕は人間ではない、一個の純粋な機械だ」とマントラすることです。
村上春樹さんがウルトラマラソン完走に際して、そうしたように。


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バビロニア方式について書いてあるのはこちら。
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