シェイクスピアは名言の宝庫と言えますし、むしろシェイクスピアが現代の英語を創りあげたと言っても過言ではないでしょう(いや、まあ多少言い過ぎですが)。
ただ、シェイクスピアを知らなければ分からない表現というのはたくさんあります。教養というよりは、常識に属します。野球の名称を知らなければ、野球を語れないように、シェイクスピアを知らないと人生が語れません。
子供の頃にギャグマンガを読んでいて、その中に「尼寺へ行け」という表現があり、何が面白いのか全くわからなかった記憶があります。ハムレットを読んでいなければ、ギャグも理解できないのです。
ちなみにシェイクスピアは長い長い戯曲です(ハムレットはシェイクスピアの作品のうちで最も長い戯曲です)
戯曲というのは、端的に言えば台本です。
台本であるからこそ、書籍で文章を読むのではなく、目の前で演じられるのを観劇するのが一番です。
演じられているものを観たあとで、戯曲を読むと生き生きと目の前に演劇空間が広がります。
僕自身も若いころ、友人たちが次々とシェイクスピア劇に出演してくれたおかげで、それを観に行く中で期せずして、シェイクスピアを観て聞くことができました。
戯曲を読むのには大変な集中力が必要ですが(戯曲を読むのが好きという人もいます)、演じられているものを観るのは楽しいものです(演技の上手さにもよりますが)。
たとえばシェイクスピアの傑作(シェイクスピアの作品はすべて傑作でしょうが)である「ロミオとジュリエット」の戯曲を若きディカプリオとクレア・デーンズの美しいカップルで観るのも良いかもしれません。
舞台は現代ですが、セリフはシェイクスピアに忠実です。
ブルーレイの宣伝トレーラーですが、映画のトレーラーよりも画質が綺麗です(当たり前か)。
(アマゾンで400円で高画質レンタルもできるようなので、あとで観てみようかと思いますw)
ちなみに、ロミオとジュリエットの現代版がWest Side Storyです。
バーナード・ショウのピグマリオンの現代版がマイ・フェア・レディ(オードリ・ヘップバーン)、NY版がプリティー・ウーマン、京都版が「舞妓はレディ」(周防監督が長年あたためて企画というだけに、非常に面白かったです)。
そもそもオリジナルのピグマリオンからして、ギリシャ神話に由来します。
余談ながら、West Side Storyに触発されて、マイケル・ジャクソンのBeat itのショート・フィルムは作られているとか。
ちなみに、West Side Storyも、マイ・フェア・レディもリップ・シンク(口パク)です。
出演者自体は歌の練習もし、実際にも歌っているのですが、編集の際に変えられています。
またプリティー・ウーマンもボディ・ダブルです。ジュリア・ロバーツはリチャード・ギアよりも本当は背が高いので。あの豊満なボディはジュリア・ロバーツというよりも、身代わり(ボディ・ダブル)の方のものです。
West Side Storyはいま観ても新しくCoolなのは、現代を装った古典(シェイクスピア)だからでしょう。
NYCBをバランシンと共につくりあげたジェローム・ロビンスの振付作品の中では、個人的には牧神とこのWest Side Storyが好きです。
長い前置きですが、本題はハムレットです。
ハムレットはシェイクスピアの四大悲劇と学校で習いました。
「ハムレット」と「マクベス」、「オセロ」、「リア王」です。オセロはゲームの名前を思い出しますが、そのゲームの名前自体がシェイクスピアから来ています。白と黒が入れ替わります。
リア王の物語は「まといのば」でもお馴染みです。
ちなみに、マクベスはいまMETのライブビューイングでやっています。
METというのはメトロポリタンオペラのことです。ニューヨークのリンカーンセンターの一角であり、オペラの殿堂です。
今シーズンのMETのオープニングをかざっただけあって圧巻です。ヴェルディであり、シェイクスピアです。演者も見事でした。歌も演技も。
オペラと言えば、本場はNYのMetropolitanでしょうし、オペラと言えばヴェルディです。
そして、アンナ・ネトレプコのマクベス夫人がすごすぎます。マクベス役を当たり役としているジェリコ・ルチッチも見事に悲劇を生き抜いています。ヴェルディとシェイクスピアとMETが一気に楽しめる最高の機会です(とは言え、金曜日までの上演ですので、お早めに)(といういか、これに限らずMETのライブビューイングシリーズは本当に豪華です。今年のラインナップはかなりすごいです。劇場で観ることをおすすめします。いや、NYのリンカーン・センターで観られるのであればそれにこしたことはありません。もしくはDVDとかBlu-rayを強く希望します(^^))
ただ、本題はマクベスではなくハムレット。
それも、前回紹介したペネロペ・クルスの引用の話です。
Assume a virtue, if you have it not.
(せめて装いなさい、持たぬとしても)
クルスは、自分は最もセクシーな女性だとは思えないけど、1歳と3歳の子供を抱えた寝不足のお母さんだけど、与えられた役は演じるわ、という意気込みをハムレットの言葉に託していました。
Esquire [US] November 2014 (単号)/Hearst
この引用のシーンはハムレット三幕四場。王妃の寝室のシーンです。
母親である王妃と息子であるハムレットが対峙しています。
ハムレットという話は非常にシンプルに言えば、父親の弟である叔父に対する復讐物語です。
ここで王である叔父は完全な敵役です。
叔父は先王を殺し、后を娶って、王位についた、とハムレットは妄想します。先王はハムレットの父です。王妃は母です。
ですからハムレットにとっては、叔父は父と母を奪った憎いやつです。
父を殺し、母を娶ったからです。
ですが、その事実を知っていることがバレたら、叔父のクローディアスに殺されると思って、発狂した振りをします。完全に厨二病なハムレット君です。
そして、当然ながら父の弟と再婚した母(王妃)のこともハムレットはなじります。
そのシーンがこの寝室のシーンです。
ちなみに、侍従長のポローニアスはハムレットの態度に不安を覚えており、ハムレットが寝室に来るというので影に隠れています。
厄介なのはこの侍従長の娘とハムレットは恋仲であるということ。
そして、寝室にひそんでいた叔父と間違えて、この忠実な(かわいそうな)侍従長を刺し殺してしまったことです。すなわち恋人のお父さんを、間違えて殺してしまったのです。
バカに権力と武器を持たせると大変です。それが厨二病をこじらせていたら、なおさらです。
というか、こういう悪魔的なシナリオを書いたシェイクスピアがすごいと思います。すごい性格の悪さですw
憎き叔父を刺し殺したつもりで、間違えて侍従長を殺してしまったことに気付いた厨二病のハムレットくんはそれでも強弁し続けます。
お前(王妃)が父を裏切ったから悪いんだと、母親に対して逆ギレです。
百歩譲って裏切りが事実だとして、それが侍従長を殺害する理由にはならないのですがw
そのあと「おまいら、もちつけ」とハムレットのお父さんが突如、登場します。
お父さんである先王は叔父に殺されていることになっているので、もちろんゴーストとして登場です。
幽霊との出会いは映画「Ghost(ゴースト/ニューヨークの幻)」を観ても分かるように感動的なものですが(冗談です)、厨二病の妄想ではトンチンカンな感じです。
ちなみに余談ながら、ニューヨークのゴーストがゴーストになる前に恋人と観たのがマクベスでした。
もっと余談ながら、ハムレットの初演時に先王のゴーストはシェイクスピア自身が演じたとか。
で、お父さんが幽霊としてやってきて、ハムレットくんが落ち着いたところで、またハムレットくんの長台詞が始まります。また母親にむかって、罵詈雑言です。
この逆ギレ力(りょく)がハムレットの魅力です。
逆ギレされたかわいそうな王妃(母上)が「私の心は二つに切り裂かれた」と嘆くと、ハムレットはこう応えます。
Assume a virtue, if you have it not.
(美徳を装いなさい、もしもあなたが持たぬなら)
戯曲をきちんと読むと、ハムレットって、何様って思います。
そう思うのは正常な感覚だと思いますw
ハムレットは王妃が「心が二つに裂けてしまった」という悲痛な叫びに対して、「じゃあ、その悪い方の心を捨てて、良い方だけで生きると良い」と偉そうにアドバイスします。
続けます。ハムレットの王妃への言葉です。
「おやすみなさい。しかし、叔父さんの寝室には行かないように。
貞操を装いなさい、もし持っていないとしても
かの怪物であるところの習慣というのもは、すべての感覚を食い尽くし、悪魔のようにふるまう。
しかし、習慣は使いようによっては天使である。
すなわち、良い行いを続ければ、この怪物(習慣)というやつは、同じようにそれにふさわしい衣服を与えてくれる。
今夜は叔父さんのもとへ行くことを控えなさい。
そうすれば節制はより容易になる。
そして、続けていれば、その次はもっと楽になる。
習慣によって、生まれながらの性質ですら、ほとんど変えることができる。
そして悪魔をも支配する、いや、悪魔を放り出すだろう。
習慣とは、素晴らしく有効なのだよ。
もう一度言う。おやすみなさい。
お母様が祝福されたいと思うがきたら、そのとき私はあなたからの祝福を受けよう。」
偉大さと厨二病は紙一重というのが、ハムレットが友人のホレイショに言った「天と地の間には、お前の哲学が夢見る以上のものがある(There are more things in heaven and earth, Horatio,Than are dreamt of in your philosophy..)」(一幕五場)なのかもしれません。
蛇足ながら、いつもながら引用元はWikisourceです。
(引用開始)
Queen Gertrude
O Hamlet, thou hast cleft my heart in twain.
Hamlet
O, throw away the worser part of it,
And live the purer with the other half.
Good night: but go not to mine uncle's bed;
Assume a virtue, if you have it not.
That monster, custom, who all sense doth eat,
Of habits devil, is angel yet in this,
That to the use of actions fair and good
He likewise gives a frock or livery,
That aptly is put on. Refrain to-night,
And that shall lend a kind of easiness
To the next abstinence: the next more easy;
For use almost can change the stamp of nature,
And either ... the devil, or throw him out
With wondrous potency. Once more, good night:
And when you are desirous to be bless'd,
I'll blessing beg of you.
(引用終了)
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習慣という怪物は悪魔のようにふるまうが天使である(ハムレット)
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