寺子屋「ファインマンの量子電磁気学」は、受講生の十全な予習もあって非常にうまくいきました。
量子電磁気学、もしくは量子力学も非常に難解とされていて、いわば雲をつかむようなところがあります。
ですので、ファインマン先生のガイドのもと、我々も暗い森を奥深く入っていきました。
「ひとの世の旅路のなかば、ふと気がつくと、私はますぐな道を見失い、暗い森に迷い込んでいた。
ああ、その森のすごさ、こごしさ、荒涼ぶりを、語ることはげに難い。思いかえすだけでも、その時の恐ろしさがもどってくる!」(ダンテ 神曲 地獄編冒頭)
ちなみに、基本的な流れ(マップ)はシンプルです。
第一に、量子とは、粒子でも波動でもなく、どちらにも似ていないことを(そして我々が知るありとあらゆるものに似ていないことを)確認します。
第二に、古典力学では絶対に解明できない(トマス・クーンの言う変則性)点の指摘からスタートする!これももちろん、ファインマン先生のパクリで、いわゆる電子の二重スリット実験から入るということです。
第三に、量子論のシンプルなアルゴリズムを頭と身体で理解する。
アルゴリズムはシンプルです。下に書いておきます。
これももちろんファインマン物理学に基いており、確率振幅をベクトルで表すというファインマンダイアグラムの少し手前までを扱いました(ファインマン・ダイアグラムは触りだけ)。
ちなみに次回寺子屋で扱うときは9期のヒーラー養成スクールで行ったシュレディンガー方程式の導出からはじめて、量子力学をもう少し計算ベースでガリガリやって、今回さわりだけだったファインマン・ダイアグラムやらブラケットやらまできちんと行きたいと思っています。
ちなみに、アルゴリズムは以下のとおりです。
1)理想的実験において、ある事象のおきる確率は、確率振幅とよばれる複素数Φの絶対値の2乗で与えられる。すなわち、
P=確率
Φ=確率振幅
P=|Φ|^2
2)一つの事象がいくつかの異なる過程を経て生起できるとき、その事象に対する確率振幅は、それぞれの別の過程に対する確率振幅の和である。このとき、干渉が起きる。すなわち
Φ=Φ1+Φ2
P=|Φ1+Φ2|^2
3)ある実験を行ったとき、その実験によって、ある過程と別の過程のどちらを実際にとったかを決定できるときには、その事象のおきる確率は、それぞれの過程の起きる確率の和である。このとき干渉は失われる。すなわち、
P=P1+P2
(ファインマン物理学 Ⅴ p.16)
寺子屋の受講生にとっては、かなりスッキリとする話でしょう。
「ある事象のおきる確率は、確率振幅とよばれる複素数Φの絶対値の2乗で与えられる」というプリンシプルだけで十分かと思います。
ちなみに、ここには古典力学で絶対条件とされた「予測」が「ある事象の起きる確率」に変わっています。科学が科学であるためには、「予測」が不可欠とされていましたが、それが崩壊したのが量子力学です。すべては確率としてしか記述されません。それに対して、アインシュタインは「神はサイコロを振らない」と批判し、ボーアはアインシュタインに「神に指示をするな」とツッコミました。
その点についてのファインマンの言葉を引用します。
(引用開始)
ここで古典力学と量子力学のきわめて重要な相違点について強調しておこう。これまで、電子がある与えられた状況に到達する確率について話してきた。このことは、われわれの実験のやり方では(または、できうる限り最高のやり方であっても)、何がおきるかを正確に予測することは不可能であることを意味するものであった。ある事象のおきる見こみしか予測できないのである。もしそれが本当なら、そういう物理学は、ある一定の状況のもとで何がおきるかを正確に予測することをあきらめてしまったということを意味している。まさに物理学はあきらめてしまったのである。ある与えられた状況のもとで何が起きるかを予測する方法を、われわれは知らないのである。
(引用終了)(同p.16)
ここにおいてラプラスの魔が死亡ということです。
原理的に生きることができないのが、ラプラスの魔と神様ということです。
予測⇒確率
というのは第一に大きなパラダイム・シフトです。
その次に、その確率を支えるのは、確率振幅(波動関数)であるという認識です。
確率振幅って何?という点について、ファインマン先生は「光と物質のふしぎな理論 私の量子電磁気学」において、矢印を用いて説明しています。
鏡に光が反射する現象を矢印で説明します。とは言っても、ユークリッドやフェルマーの幾何光学ではなく、量子電磁気学の矢印(確率振幅)です。その矢印の長さを自乗すると確率になり、その方向は光子の経過時間に依存します(ファインマン先生はストップウォッチに喩えています。こちらのほうがはるかに良いです)。
二重スリット実験はあまりに有名ですが、「セーラ服と機関銃」と題して、3つの二重スリット実験を紹介しました。
一つ目が機関銃、二つ目が波(水の波)、3つ目が電子です。
これはあまりに有名でかつあまりに美しい実験です。
そもそもは光波動説の証明のための実験でしたが、その輝きは量子力学まで及びました。
通常、粒子で考えるならば、機関銃を乱射した二重スリット実験のように、スリットが一つ開いたとき同士の単純な和が、二重スリットのときも起こります。
すなわち、
3)ある実験を行ったとき、その実験によって、ある過程と別の過程のどちらを実際にとったかを決定できるときには、その事象のおきる確率は、それぞれの過程の起きる確率の和である。このとき干渉は失われる。すなわち、
P=P1+P2
という状態です。
波動で言えば、
2)一つの事象がいくつかの異なる過程を経て生起できるとき、その事象に対する確率振幅は、それぞれの別の過程に対する確率振幅の和である。このとき、干渉が起きる。すなわち
Φ=Φ1+Φ2
P=|Φ1+Φ2|^2
この状態になります。
しかし、光子は粒子であり、波動ではありません。
なぜなら、光電子増倍管がカチッと鳴るからです。半分の大きさの音は聞こえてきません。
ここにおいて、光子は粒子でありながら、干渉模様ができるという波動の性質も持つことになります。
その上、どちらのスリットを通ったかを調べると(スリットを越したところに光源を起き、電子と相互作用させることで調べるとします。これを「波平モデル」と寺子屋では言いました。電子が通過すると光子が散乱してフラッシュするからです)。
これが観測問題であり、観測すると結果が変わります。
どちらのスリットを通ったかを観測すれば、干渉せず、どちらのスリットを通ったかを確認しなければ、干渉します。
鶴の恩返しのようなもので、覗くと機を織るのをやめてしまいます。
しかし、これは古典力学のパラダイムでのものの見方ゆえにミステリーなだけです。
シンプルな話です。
原則を確認します。
1)理想的実験において、ある事象のおきる確率は、確率振幅とよばれる複素数Φの絶対値の2乗で与えられる。すなわち、
P=確率
Φ=確率振幅
P=|Φ|^2
2)一つの事象がいくつかの異なる過程を経て生起できるとき、その事象に対する確率振幅は、それぞれの別の過程に対する確率振幅の和である。このとき、干渉が起きる。すなわち
Φ=Φ1+Φ2
P=|Φ1+Φ2|^2
3)ある実験を行ったとき、その実験によって、ある過程と別の過程のどちらを実際にとったかを決定できるときには、その事象のおきる確率は、それぞれの過程の起きる確率の和である。このとき干渉は失われる。すなわち、
P=P1+P2
すなわち、われわれはスリットのどちらかを電子が通るとか、2つに別れて霧のようになるとか(そして観測によって波束が収束する)、そのような古典力学的な立場で考えすぎていたということです。
そうではなく、ある事象を考えるときは、実験の初期状態と最終状態をきちんと定義して計算する必要があるということです。最終状態が異なれば、計算もまた変わります。
すなわち、どちらのスリットを通ったかという最終状態があれば、計算は変わる(干渉はしない)ということです。
ファインマンの言葉を引きます。
(引用開始)
このパラドックスを理解するために、今もっとも大切な次の原則を思い出してください。事象の起る確率を正しく計算するには、細心の注意を払って、その事象を始めから終わりまですべて正確に記述する必要があります(これを閉じた事象と呼びます)。言いかえれば、特に実験の初期状態と最終状態をはっきり定義しなくてはなりません。実験の前後で装置に起きた変化を調べるのです。(引用終了)(私の量子電磁気学 p.113)
すなわち、スリットに検出器を置かない場合は、光子がどちらのスリットを通ったかを知ることができないために、干渉が起こります。なぜなら、それぞれのスリットを通過する経路(確率振幅)を足しあわせて、自浄するからです。
しかし、スリットに検出器を置くことで、2つの閉じた事象、2つの別な最終状態があることになりるので、それぞれの確率を計算することになります。
ですので、これはパラドックスでも、神の恩寵でも、観測問題でもなく、普通の現象であるということです。
この振幅(確率振幅、波動関数)という概念に慣れてしまうと(それもファインマン流の矢印とファインマン図が良いと僕は思いますが)、量子力学の様々なパラドックスが綺麗に解けていきます。
最初は難解ですが、ファインマン先生もこう言います。
(引用開始)
振幅というのが抽象的概念であるため、すべてを振幅から考えるというのは、はじめは難しいかもしれません。しかしこの妙な言葉もしばらく使っているうち慣れてくるものです。(引用終了)
(私の量子電磁気学 p.168)
ポイントは「慣れ」です。
量子力学の不思議の国で何年も何十年もさまようよりは、レッド・ピルを飲んでさっさと覚醒したほうが早いように思います。
レッド・ピルとして寺子屋をファインマン物理学はオススメです!(寺子屋も!)
【書籍紹介】
何度か紹介していますが、今回の量子電磁気学での教科書です。
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ふと気がつくと、私はますぐな道を見失い、暗い森に迷い込んでいた〜量子力学へのパラダイム・シフト〜
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