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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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ブラックホールを一般相対性理論の枠組みだけで考えるとなぜ間違えるのか?

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本年、最後の寺子屋が終わりました!

「やさしいブラックホールの熱力学」ということで、ニュートン力学から一般相対性理論、量子論を経る中でブラックホールがどう認識されてきたか、その変遷が理解できたのではないかと思います。

ニュートン力学のコンテキストではブラックホールは記述できないと言う意見ももちろんあるでしょうが、単純に脱出速度が光速を超えると考えれば光が脱出できない黒い星ということで定義可能です。たとえばラプラスは暗黒星(いまで言うブラックホール)をこう定義しています。

(引用開始)
地球と同じ密度をもち、そしてその直径が太陽の直径よりも250倍大きいはずの明るい星は、引力の結果、その光線の何ものもわれわれに到達することを許さないだろう。したがって宇宙におけるもっとも大きい明るい物体は、この原因によってみえないことも可能である。 P.S.Laplace(1798)(p.913 重力理論)
(引用終了)

これはラプラスの著書"Exposition du Systeme du Monde”にある議論です。同様の議論はジョン・ミッチェル(John Michell)が1784年の王立協会の会報に発表しています。


*ラプラス「Exposition du Systeme du Monde」

面白いのはこれはシュヴァルツシルトが一般相対性理論から導きだしたシュヴァルツシルト半径と同じだということです。彼らはニュートン力学の枠組みでもちろん考えて、暗黒星について語っています。

シュヴァルツシルト半径は一般相対性理論の解として、一般相対性理論が発表された直後(翌年)に発表されています。当時は曲率が無限大になる半径として導出しました(実際はアインシュタイン解としては特異点が曲率無限大で、シュヴァルツシルト半径内が曲率無限大ではありませんが)。



これと同じ式をラプラスたちは導出しました。

アインシュタインの重力方程式(一般相対性理論の方程式)も無しでどうやって求めたのでしょう。

このカラクリはシンプルです。

脱出速度というのがあります。地球にも脱出速度(第二宇宙速度)があります。これについてはかつて書いたことがあります。

ちなみに脱出速度に関してはニュートンがプリンキピアで言及しています。これをプリンキピアの原典から一生懸命探していたのですが(グーグル先生が電子書籍化して無料で配布しています。ありがたい)、レジュメ作成時までに見つからず、がっくりしていました。すると灯台下暗しで、受講生が講座中にサクッと見つけてくれました。原典から探していた時間がもったいなかったです(まあ、そんなことでもないとラテン語の原典に目を通す機会など永遠に無いでしょうから良いのかもしれませんが)。ちなみにこれはWikipedia「ニュートン力学」からの引用です。



ざっくりと見ましょう。
おそらく、ニュートンは山のてっぺんからおそらくリンゴを投げたのでしょう(まあ砲弾でもいいのですが)
山のてっぺんから水平に放り投げたリンゴはいつかは重力に引かれて地表に落下します。物(もの)を放れば、放物線を描くのはご存知のとおり。
どれだけスピードを上げても、いわゆる第一宇宙速度未満ならば、地表に落下します。もし第一宇宙速度で放り投げることができれば、人工衛星と同じになります。周回運動をします。すなわち、第一宇宙速度で投げれば、リンゴは月と同じ運動をするとニュートンは考えました。
第一宇宙速度以上の速度で投げれば、楕円軌道を描き、ここには描かれていませんが、第二宇宙速度を超えれば地球の重力を振りきって、地球外へ飛び出します。

いわゆる第二宇宙速度(脱出速度)の求め方はシンプルです。

運動エネルギーと位置エネルギーが等しくなればいいので


上式を解けば



となります。脱出速度の式です。

この脱出速度が光速であれば、光は少なくとも脱出できないだろうと考え、VにC(光速)を代入し、Rについて解くとなんとシュヴァルツシルト半径になります。シュヴァルツシルト半径とはブラックホールの半径のことです(事象の地平面ですが、まあ実質的にブラックホールの半径です)。



シュヴァルツシルトの解は一般相対性理論から導かれたものですが、ニュートン力学からでも同じ値が求められます(ここからも一般相対性理論の近似式としてニュートン力学が十分に有効であることが分かります。もしくは一般相対性理論はニュートン力学の修正と拡張でしかないということです)。

で、ブラックホールには3つの視点があります。

1つは上記のようにニュートン力学の枠組みで大質量の星が重力崩壊して大きすぎる質量で、光も脱出できないという立場、2つ目はアインシュタインの重力理論の解として特異点が生じ、シュヴァルツシルト半径が存在するような特異点型のブラックホール、これは絶対零度でエントロピーもゼロです。ブラックホールは巨大になるばかりで、小さくなることはありません。そして真っ黒です。
最後の3つ目の立場は、量子論以降の立場です。ホーキングが提示したようにブラックホールは温度を持ち、エントロピーを持ち、ブラックホール放射してあまつさえ蒸発する可能性もある存在です。

今回はこの3つを参照しつつ、ブラックホールから重力、質量、加速度系での時間の遅れ、運動の相対性、量子ゆらぎ(対生成、対消滅)、エントロピー、温度、情報理論としての熱力学を考えました。詳細はまた書く予定ですが...。

端的に言えばニュートン力学や一般相対性理論のみでのブラックホールの理解は間違いということです。

たとえば大質量(銀河系)レベルのブラックホールであれば、シュヴァルツシルト半径での表面重力加速度は8m/s^2となります。これは地上の重力加速度よりも小さいものです。ですから、事象の地平面の近くにいても重力が強いとは感じないはずです。潮汐力も全く感じないでしょう。
これはシュヴァルツシルト半径が重力に比例するのに対して、半径の逆二乗則で重力が逓減するのが理由です。重力が大きくなりまうが、表面重力はもっと激しい勢いで小さくなります。ですから大きいブラックホールであればあるほど、事象の地平面の表面重力は小さいという事態になります。具体的な数字を入れるとより一層はっきりします。
ですから、ブラックホールをニュートン力学的な意味での重力だけで考えると間違えます。

また同様にアインシュタインの重力理論だけで考えても、ブラックホール放射とそれに伴うエントロピー、温度、そして熱力学のパラドックスが解けません。熱力学のパラドックスとは、ブラックホールに落ちた情報は失われるのかという問題です。もし失われるのであればエネルギー保存則や、情報の保存がブラックホールにおいて破綻します。これは物理学の危機です。

以上のようにニュートン力学的な視点、一般相対性理論での視点を通過して、量子論で考えるようにする良いケーススタディであったように思います。

受講生の皆さんは、難解な内容にも関わらず、かなり深く理解できていたのではないかという感触を得ていますので、来年のラインナップもますます豪華に行きたいと思います!




【書籍紹介】
ラプラスの引用はこちらの本からです。
1324ページある大著で、少し古いのですが一般相対性理論を学ぶには最適な教科書だと思います(もう1つはファインマン物理学です)。
一般相対性理論についてかゆいところに手が届くテキストだと思います。英語版と併せてつまみ食いしてみてください(^^)

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