「天才たちのリレー」講座について書いたブログで戯れに補講について触れました。補講と言っても本講座終了後の質疑応答のことをそう呼んでいます。質疑応答もしますが、質問に関連して、本講座で漏れてしまったコンテンツが復活することも多くあります(たとえば「算数」ではリーマンゼータ関数についてやりました)。いつも好評です(多分)。
「天才たちのリレー」では本講座でチラッと触れましたが、様々な補助線の引き方の中に、たとえば「錬金術」などという補助線があります。
「天才たちのリレー」のコンセプトは大量の偉人(哲学、科学の偉人)を一気に相関図と共に覚えてしまおうという企画です。
相関図が頭に入ってしまうと、知識の集積の速度が猛烈に上がります。
たとえば小学生に社会を教えたいと思ったら、47都道府県をかっちり覚えさせることです。すると日々生活していて、様々な都道府県が出てきたときに、地図が入っている子はその知識が目につきます。都道府県が頭に入っていない子はざるで水をすくうようになってしまいます。
同様にたとえば高校生に化学を教えようと思ったら、意味のない点電子式のこまかな作業など無視してまずは周期表を完全に覚えるさせることです。「すいへーりーべー」を暗誦して、その原子式を書けるようにします。何度も何度も周期表をそらで書けるようにして、そこから化学式を水や酸素、二酸化炭素のような簡単なものからはじめて100個ほど覚えます。これも10個か20個は英単語のように機械的に覚えます(これもロゼッタストーン式が使えます)。そのあとはまさにロゼッタストーン式で化学反応式をシンプルなものから覚えていきます。
水素を燃やすと水になる。
水素+酸素⇒水
H2+O2⇒H2O
というロゼッタストーン式にします。
3番目を見て、読めるようにして(発話が重要です。数学や化学ができないのは、単にその文字を読めないから先へ進めないということがかなりを占めるように思います)、次に2番目の式と3番目の式を対応させます。2番目を見て、3番目の化学反応式が書けるようにして、最後は1番目から3番目を書けるように訓練します。
化学を学ぶというのは、「化学の目」を持つということです。すべての物理現象に(というか化学現象に)化学反応式を見る目を持つことがゴールです。水素のポンという燃焼で水蒸気ができたときに、そこにアリストテレスの4元素説ではなく、化学反応式を見るということです。
以前(と言っても10年は前になりますが)、酸も塩基も全くしらないという学生相手に週1回の加速学習を依頼されたことがあります。大学受験の家庭教師です。アルカリ性という言葉も聞いたことがないと小学生レベルの化学も全く知らないということでした(ちなみに化学は唐突に高校で出てくるわけではなく、小学校でも中学校でもある程度のところまでやります)(僕はなぜか小学校の先生が良い意味で変わった人で化学式を理科の授業でなぜか教えていました。子供の時は背伸びしたいいものでみな競って覚えていました)。ゼロに近い化学の知識だったのですが、逆にまっさらなので変なクセが無かったせいか、乾いた砂が水を吸うように学習が進み、3ヶ月で早慶の入試問題でしたら解けるレベルになりました(東大などの国立はまた一段階、別な難しさがあります)。勉強というのはやり方さえ間違えなければ、合理的に素早く終わります。
高校化学の教科書もそうですし、高校物理の教科書もそうですが、物理や化学を嫌いにしたいのかと思うような晦渋であまり意味のないことに冒頭を割いているように思います。もちろんこれは僕の見方であり、僕自身は全体像(マップ)が見えると学習が進むという立場です。地図がなければ目的地へ行けないという立場です。これとは全く正反対の立場ももちろんあります。結果が出ればどちらでもいいので、自分にあった学習法を見つければいいとは思います。
化学と言えばChemistryで、語源はalchemyで錬金術と言われます。銅から金を創ろうとしていた錬金術はたしかにイメージ的には化学実験とかぶります。
しかしそれは錬金術を矮小化しすぎかもしれません。
話が飛び過ぎなので、元に戻りますと、相関図(マップ)が頭に入ると習得は素早くなります。たとえば化学で言えば周期表がマップになります。周期表をベースにして化学反応式のロゼッタストーン式学習を進めていったら、次に化学反応式同士の巨大な相関図ができるようになります。それが2番目のマップです。オントロジカルネットワークのようなマップです。
都道府県や世界地図(国名)も同じです。その地理的なマップに対して時間が流れることで、地図の上に歴史が堆積していくと、学習は加速します。これをリニアな時系列だけで覚えようとするとかなり苦しいのですが、地図という別な次元が入ることで、歴史を別な切り方で認識できます。地政学的などと考えなくても、地理的条件というのは欠かせない視点です。
いずれにせよ地図が頭に入ると、地理だけではなく、歴史も、政治経済や公民などに至るまで、「できる」子になります。
ちなみに地理に関しては、自分たちが中心にいないという感覚は中心と自分との相対関係をいやが上にも意識します。端的に言えば、地方の人は東京との距離や関係がたえず意識に上るということです。世界で言えば、たとえばアメリカとの関係を意識せざるを得ないということです。すなわち、自分と中心という視座ができていると、その点と点をつなぐ中で中間や周囲を見るので、マップはできやすくなります。関西圏の中学受験などで社会科が受験科目にないのは、社会科を軽視しているのではなく、全員ができてしまうので審査にならないということを受験業界にいたときに聞いたことがあります。逆に東京都に住む人は自分が日本の中心と無意識でみなしがちなので、周囲を覚えないという傾向があるので社会科が苦手になるという傾向があるということです。
言うなれば、辺境からの視点が大事ですね。そこから全体像を眺めると加速学習が可能です。
(あまり関係ありませんが、昨日のギリシャ神話でもクロノスも末っ子、ゼノンも末っ子でしたね。両者とも父を倒しての下剋上に成功します。長子が中心というイメージに対して、最後におくれてやってくる末っ子は辺境のイメージです)
また辺境にさまよいがちな話を戻しますと、「天才たちのリレー」講座ではそのマップが重要であるというテーマで講義をしました。
アリストテレスとはどんな人でどんな業績があったかということも大切ですが、それよりは他の人との関係性の網の目に注目するほうが良いということです。アリストテレスとニュートンとアインシュタインはどう関係するのかという視点から考えたほうが、アリストテレスの業績を丸暗記するよりも使える知識になります。
そしてそこからもう一歩踏み込んで、そのアリストテレスとニュートンとアインシュタインの関係図を自分で描くとより良いということが、今回の講義のテーマでした。
天才たちがどうバトンをリレーしていくかを自分なりの視点で描ききるということです。そのときの視点なりテーマがたとえば「科学」であったもいいですし、「宇宙」でも構いません。「電気」でまとめても、「重力」でまとめても面白いのです。
アリストテレスは四元素説から重力現象を説明します。ガリレオ・ガリレイはアリストテレスの重いものは早く落ちるを数学的に批判しました。ニュートンは落ちるリンゴと月を見て、重力を万有引力の原理としてまとめあげ、アインシュタインは重力とは加速度と等価であり、時空の曲率であるとしました。
たとえばリンゴという視点で天才たちをまとめるのも方法です。最初の男と女であるアダムとイブが食べたリンゴ(昨日、ギリシャ神話の講座語に補話しましたが、イブはリンゴを飲み込みましたが、アダムはイブにそそのかされたけど、神様との約束がちらついて食べきれず、喉につっかえてしまいました。それがAdam's Apple=のど仏です。だからアダムはリンゴを食べたとも言えるし、まだ食べていないとも言えます。だからこそ神を称える歌であるグレゴリオ聖歌は男しか歌えないという嘘のような話)、ニュートンのリンゴ、ギリシャ神話の黄金の林檎などをまとめていっても面白いかもしれません。
このときの「重力」なり「リンゴ」が補助線として機能します。
補助線とは図形問題を解く時のポイントであり、補助線を一本引くことで問題が一気に解決可能になります。同じく、膨大な天才たちの列を眺めても呆然としますが、そこに一本補助線を引くことで、整理されて見通しが良くなります。
この補助線を自分で引くことがポイントです。
そして図形問題と違って、抽象観念の世界ではその補助線は極端であればあるほど機能しやすくなります。
という例として上げたのが「錬金術」でした。
先のブログから引用します。
(引用開始)
これは購入可能なバックナンバーの音声教材には含まれていませんが、「天才たちのリレー」の補講では錬金術という補助線で世界を切ってみるというマップも創りました(希望者が多ければ補講分の音声も受講生に配ります)。するとそこにあらわれるのは、アリストテレスであり、ニュートンであり、アインシュタインです。アリストテレスが言い出し、ニュートンがきわめ、そしてアインシュタインが実現しました(冗談ではなく)。錬金術はアルケミーと呼ばれ、それがケミストリーになったというのはかなり矮小化しすぎです。ケインズが示したように、ニュートンは錬金術師ですし、四元素の外にある第五元素について語っているのはアリストテレスです。そして粒子加速器によって元素(原子)を変えるという錬金術は実際に実現可能になりました。
ふざけたような風変わりな切り口(補助線)でも、まじめに考えるといろいろと見えてきます。
それを自分で掘り当てるのが楽しいのです。そしてそれこそが加速学習の肝です。
(引用終了)
「希望者が多ければ補講分の音声も受講生に配ります」と試しに書いたら、意外なほどに希望が多かったので、音声教材を作成して(編集して)、受講生のうちの希望者に配布しています。
今回はその内容についてまとめるつもりでしたが、あまりに長くなってしまいサーバーに余白がないので、また別の機会に。
次回は「ブラックホールの熱力学」。
好評だったギリシャ神話に続き、今年最後の寺子屋は「ブラックホールの熱力学」です。
ブラックホールという特異的を中心に考えると、相対論も量子論もそして熱力学までもがすっきり見えてきます。宇宙論に切り込みつつ、これまでの復習と予習が一気にできる最適な講座かと思います。
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補助線の引き方はできるだけ極端なほうがいい、たとえば「錬金術」という補助線
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