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Channel: 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ
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宴のあとに...ブラックホールの熱力学

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寺子屋の秋季集中講座というお祭りが終わり、多くの収穫がありました。
お祭りというのはまた良いものだなぁと思います。
集中した長い時間を過ごした後に、真剣にふざけているときに良いアイデアが降ってくるものです。

今回の愁眉の1つは「ブラックホールの熱力学」でした。

熱力学は以前に寺子屋でも扱いました。マクスウェルの悪魔が最初に登場したのもそのあたりでした。

マクスウェルの魔というか、マクスウェルの「知性」(のちに悪魔と呼ばれるようになる)に関する思考実験の射程は遠く、(当時の)熱力学の限界そしてニュートン力学の限界を突き刺し、情報理論におけるエントロピーも貫いています。

たとえば寺子屋の「熱力学」でも、シャノンの情報理論でも引いた以下のマクスウェルの文章があります。

(引用開始)
これを踏まえると、エネルギーの散逸という概念は、我々の知識の程度しだいということになる。取り出せるエネルギーとは、望ましい経路ならどんなものにでも導くことのできるエネルギーだ。散逸したエネルギーとは、手に入れることも、意のままに導くこともできないエネルギーで、たとえば、我々が熱と呼ぶ、分子の混沌とした運動状態がそれにあたる。ところで、この混沌とは、相関名辞と同様、物質自体の属性ではなく、それを認識する心との相関によって規定される。(マクスウェル)
(引用終了)

これはセス・ロイドたち現代の物理学者のエントロピーの定義と驚くほど一致します。

セス・ロイドはエントロピーは観測者の知識の量と相関するその意味で主観的な量だと言います。観測者にとっての未知の物理量がエントロピーだと。

たとえば、我々はある部屋の温度を知っているとします。26度という温度を知っているとしたら、それは我々は部屋の空気を構成する分子(空気だけに限定することはありませんが)の平均速度について知っているということです。

たとえばある学校のクラスの生徒のある試験(テスト)の平均点を知っているということは、我々はそのクラスの生徒について何がしかの情報を持っているということになります。平均点を知らないよりは知っているほうが良いでしょう。しかし、平均点しか知らないとしたら、それぞれの生徒の個別の点数を知らないということです。
空気の分子に関しても個別の速度を知らないということです(ここでは量子論により、もしくは不完全性定理により、原理的に知ることができないという議論はあえて無視します)。この未知の物理量をセス・ロイドはエントロピーとしました。

既知と未知は客観的なものではなく、当然ながら観測者の頭の中にゆだねられます。だからこそ、「この混沌とは、相関名辞と同様、物質自体の属性ではなく、それを認識する心との相関によって規定される。」のです。混沌とはエントロピーのことです。


という復習はもとより様々なことを秋の集中講座では復習しました。

またいろいろなサプライズも用意したのですが、たとえば初日の冒頭は1時間近くをかけて様々な書籍の紹介でした(これはこれでかなり面白いと思うので、どこかのタイミングでブログにも紹介したいと思います)。

2日目の2部の冒頭では、その日に届いたNatureから「ブラックホールの熱力学」を中心とした特別レクチャー(?)を1時間ほど行いました。まさにサプライズでした。
アシスタントが関連の論文を次々とダウンロードしてくれたので、具体的な議論もできました(もちろんざっくりとにすぎませんが)。

最初の切り口は、アインシュタインの一般相対性理論です。

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ちょうど時空の歪みがなぜ重力と結びつくのかをシンプルな実験(と呼べるのか?、ゴム膜を張ってそこにゴルフボールを乗せて、お互いに近づくことを確認しました。もしこれが木の床の上であれば近づきません。時空に模したゴム膜(重力によってゆがむ)を使うことで、はじめて二つの質量を持つもの(ここではゴルフボール)が近づきます。これはもちろん全く実験とは呼べない代物ですが、ただ時空のゆがみが重力現象を説明するということを比喩として目で見て理解するには便利です。同様なことが、ファインマンの教科書にも紹介されています。
これが集中講座1部の最後の講座でした。


という寺子屋のあとに、実は「時空の曲がりの概念を用いずに、熱力学の概念のみを用いて、数学的にアインシュタインの一般相対性理論の方程式を導き出せることを発見」(p.33 Nature Digest 2013 11月号)というですから、非常に色めき立ちました。ちなみに該当論文はこちら。

というわけで該当のところを読んでみると...

シンプルに言えば、空間内のすべての点が、エントロピーとブラックホールの表面積との関係を満たす微小な「ブラックホールの地平線」上にあると仮定し、熱力学の概念のみを用いると上記のように、時空の曲がりという概念無しで、一般相対性理論が導けるということです。

そもそもブラックホールのエントロピーという概念があります。

ブラックホール自体は特異点なので、いわゆる物理法則の外側になります(ブラックホールの中身が外側って変ですが、まあ消化器の内側も身体の外側なので...どうでもいいですね)。
というか、いまは特異点とは考えないのかもしれませんが、とりあえず暫定的に。光円錐の外と同じで、観測的ない宇宙のことは無視するしかないよね、という感じです。

ブラックホールは掃除機のようなもので、遠くにある分には引き込まれませんが、近くにあると引きずり込まれます(経験はありませんが)。で、これ以上近づくともう逃げられませんよという境界面が事象の地平線です(いつも「線」ではなく「面」ではないのかと思いますが、どうでもいいですね。あ、「面」と書いてある場合もありますね)。

ともかく黒いボールであるブラックホールはその事象の地平線という球面に囲まれています。

ほとんどすべての天体のエントロピーはそこに含まれる原子の個数に比例します。ある部屋のエントロピーはその部屋の体積に比例するという感じです。しかし、ブラックホールの場合は中身について議論できないので、その表面積にエントロピーは比例します。

表面積にエントロピーが比例するという事実が、奇妙なホログラフィック理論のはじまりで、すなわち内部にある立体の情報を球面という2次元に符号化しているとみなせるということです。

なぜブラックホールのエントロピーなど考えなくてはいけないかと言うと、ブラックホールもまた放射するからです。
ちなみにほとんどの天体は熱を放射することで、そのエントロピーを減らします。コーヒーは冷めることでエントロピーを減らします。同じです。

そしてブラックホールも放射します。これがホーキング放射です。

ちなみに僕が中学生のころに物理学が嫌いになった理由の1つに自分の頭の悪さとブラックホールの蒸発があります。日本でもファンの多い車椅子の天才ホーキング博士がブラックホールは蒸発すると言い出しました。「なんじゃそりゃ~」とはじめは思い、そしてそれが真剣に議論されていることに絶望感を覚えて、これはSFじゃないかと思い、僕はスピリチュアルに転げ落ちました(冗談です)。

で、今でこそホーキング放射は普通のことと受け容れられますが、煽情的なブラックホールの蒸発(十分に小さいブラックホールはホーキング放射によって消えてしまうので、蒸発する)という物言いは、ニュートン力学とアインシュタインの決定論的な世界観が好きだった田舎の中学生には受け入れ難いものでした。

まあ、それはさておき、ブラックホールの放射自体は(その説明原理が当時のような対消滅を用いたものでないとしても)現在は一般的なものとして受け容れられています(加速する物体は熱浴に囲まれていることを知覚します。もちろんローレンツ収縮くらい気付かないレベルで)。

で、面白いのはこのブラックホールの事象の地平面が、ブラックホールの内部情報(エントロピー)をホログラフィックに保持しているということからスタートして、空間内のすべての点がブラックホールの地平線上にあると仮定して、熱力学の概念だけを用いることで、数学的にアインシュタインの一般相対性理論の方程式を導けたそうです。ちなみに該当論文はこちら。

これはかなり興奮する話です。

昨日も言いましたが、ある理論(仮説、方程式)が証明されると、別な方法での証明が堰を切ったように見つかります。たとえばピタゴラスの定理(三平方の定理)に証明がいくつもあるのは有名です。フェルマーの最終定理もおそらくは今後アンドリューの方法以外の様々な証明が見つかるでしょう。

同様にアインシュタインの方程式も別な道が見つかる可能性はありますし、実際に時空の歪みを用いずに証明できたのだとしたら面白いことです。

NatureDigestから引用して続けます。

(引用開始)
「これは、重力の起源について、何か深い意味を語りかけているようにみえました」とJacobsonは言う。もう少し詳しくいうと、熱力学の法則は本質的に統計的で、無数の原子や分子の運動の巨視的な平均をとったものになっている。従って、彼が導き出した結果は、重力もまた統計的で、時間と空間の目に見えない基本構成要素の巨視的な近似であることを示唆していたのだ。
(引用終了)

科学の世界もネットワークであり、縁起の鎖がつながっていきます。むしろ孤立したときは衰弱死してしまうものです。

1995年のこの研究につながる形で(ちなみにホーキング放射は1974年)、2010年にEric Verlindeにより時空の基本構成要素の統計熱力学から自動的にニュートンの重力法則が導かれることを示し、またThanu Padmanabhanによって、アインシュタインの方程式を書き換えることで、熱力学の法則と同じ形にできることを示されました。

熱力学が大統一理論になるとは思いませんが、熱力学という視点から切ることの面白さを垣間見させてくれます。

というわけで、12月の寺子屋は「ブラックホールの熱力学」...かも。

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*12月の募集はまだですが、「はじめてのギリシャ神話」と「はじめてのブラックホールの熱力学」あたりで考えています。


【書籍紹介】
というわけで、11月のNatureダイジェストです。
ここから紹介しました。
他にも面白い記事がたくさんです。
ちなみに寺子屋・秋季集中講座ではもう一つ「味覚なしマウスは精子が異常に」(p.6)を紹介しました。ちょうどワトソン・クリックの二重らせんという寺子屋講義のあとだったので、遺伝子についてのこの記事はかなりおもろかったかと思います。いわゆる形質と遺伝子が一対一対応しているという幻想を打ち砕いてくれます。コンピュータのOSとアプリケーションたちのように、お互いに絡み合っています。

nature (ネイチャー) ダイジェスト 2013年 11月号 [雑誌]/ネイチャー・ジャパン

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